黒幕と決着
第208話
*
旅行から帰った日の翌日、俺は道場にきた竹内さんを捕まえていた。
「おいおい、なんだよ道場に来るなり俺のところに来て」
「稽古、つけてくれませんか?」
「……なんだ? 急にやる気を出して、まぁ別に俺は良いけどよ」
「俺はもっと強くなりたいんです、お願いします」
「……あの三人の稽古はどうするんだ?」
「師範代と茜さんにお願いしました。一週間だけで良いんです、お願いします」
「……この前のあの事件がよほど応えたようだな」
「自分の実力を過信しすぎました」
「………良いだろう。ただし、一週間だけとなると稽古はかなり厳しいぞ。それでも良いのか?」
「はい、かまいません」
「そこまで焦る必要はないんじゃねぇか、ゆっくり時間をかけて稽古をする方が力は確実につくぞ」
「いえ、俺が付けたいのは実力じゃありません」
「じゃぁ、なんだ」
「俺が付けたいのは緊張感です」
「緊張感? どういうことだ?」
「自分がやられるという緊張感です」
俺は直ぐに竹内さんに稽古をつけてもらえるようにたのだ。
竹内さんは俺の話を聞くとすぐに稽古をつけてくれた。
一周間、俺はこの一週間で緊張感を身に着ける。
最近の俺は自分でも気が付かない間に相手を下に見て緊張もせずに勝てると思い込んで戦っていた。
だからこの前のような事になった。
試合での緊張感、それを身に着けることにより感覚を研ぎ澄まし、俊敏性を高めるのが狙いだ。
そしてその緊張感を高めるには自分よりも格段に上の実力を持った相手との血を流す程の激闘が必要だと感じ、俺は竹内さんに稽古を頼んだ。
「よし、ここなら良いだろう」
「はい、よろしくお願いします」
俺と竹内さんは道場裏に二人で移動してきた。
道場では他のみんなが稽古に励んでいる、そんな中で俺と竹内さんが戦うのは危険だし邪魔になる。
だから場所を移動し、道場裏で稽古をつけてもらう事にした。
「平斗……お前の言う緊張感を身に着けるにはそれ相応の覚悟をしてもらうぞ」
「覚悟してます」
「よし……じゃぁ、少しだけ本気で行くぞ」
「……はい」
竹内さんがそう言って構えた瞬間、俺は久しぶりに恐怖を感じていた。
*
「ありがとうございます」
「いやいや、また何かあったら聞いてくれ」
「はい、失礼します」
友人の為にこうやって情報収集をするようになったのはいつからだろうか?
僕は商店街のおじさんから聞き込みを終え、歩きながらふとそんな事を考えた。
僕の友人は面倒事に良く首を突っ込む。
放っておけば良いのに、僕の友人は放っておかない。
そんな友人に僕も救われたからだろうか。
僕は平斗とならどんな地獄にでも行ける気がした。
「高弥」
「何? 父さん」
家に帰るとリビングに居た父さんから声を掛けられた。
僕の父さんは元は刑事で今は警察署の所長をしている。
この町で起こった事件に関して、父さんに知らないことは無い。
「何を調べているんだ?」
「あぁ、ちょっと誘拐犯をね」
「……探偵の真似事はやめろ……っと言いたいところだが、そう言ってやめるお前でもないか」
「よくわかってるね、流石は僕の父さんだ」
「あぁ、これでも俺はお前を信頼しているからな。学力、運動、共にお前は優秀だ、そしてお前の友もな」
「父さんは平斗を気に入ってるからね」
「こんな事をあまり軽々しく言いたくはないが、お前は本当に良い友人に恵まれたと思っている。あの子は多少無鉄砲なところや無茶をするところもあるが、心優しい少年だ。流石は島並のお爺さんのお孫さんだ。血など繋がっていなくとも、育て方が良いのだろう、島並家の人が持っている温かさを持っている」
「僕もそう思うよ、だから僕は平斗の力になりたいのさ」
「ふっ……親子そろって島並の家とは縁があるものだ。あまり無茶はするな、島並の息子は殺されかけたと聞いている」
「今回は僕も行く、だから絶対に大丈夫さ」
「……こういう時、良い親というのは息子を止めるべきなのだろうがな……正直今回は警察も下手に手を出せない、どうやら警察内部に内通者が居る」
「大丈夫だよ……今回は僕も木刀を持っていくから」
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