第206話

「まったくお若いというのは良いですね。お盛んで」


「おい! それどういう意味だ!」


「いえ、別に……お嬢様もうかうかしていられませんね」


「は?」


「なんでもありません、このことは私の胸にしまっておきますのでどうぞご安心下さい」


「それはどうも……」


 山ノ内さんはそう言うと、ニヤニヤと笑いながらリビングの方に戻って行った。

 あの人のいう事を信じて良いのだろうか?

 てか、あの人戻った瞬間にバラしたりしないだろうな。


「あの……」


 再び俺は城崎さんと二人になる。

 城崎さんは顔を真っ赤にしながら俺に何かを言おうとしていた。


「えっと……とりあえずごめん、なるべく無理はしないようにするから」


「そ、そうじゃなくて……あの……私、先輩を好きで居ても迷惑じゃないですか?」


「え?」


「わ、私その……結構面倒な性格なので……その……き、嫌われちゃったかなって……」


 気まずそうにそう言う城崎さん。

 確かにさっきの城崎さんは少し怖かったけど。


「あんなくらいで嫌いになんてならないよ、だから安心して」


「うぅ……」


 なんでこんないい子が俺なんかを……謎だ。

 でも、流石にこのままってわけにはいかないし、帰ったらちゃんと城崎さんと話をしよう。

 俺はそんな事を考えながらリビングに戻った。


「あ、兄貴遅いっすよ!」


「島並さん夕食の用意が出来たそうです」


「早くしろ平斗、お前を待ってたんだぞー」


「あぁ、わかってますよ」


 リビングに戻ると夕飯の支度がされていた。

 みんな食べる準備は万端といった感じで、どうやら俺と城崎さんを待っていてくれたようだ。


「では全員揃いましたし、いただきますか」


「いっただっきまーす!! 俺もう腹減って腹減って」


「お前はいつもだろ大島」


「悟だってお腹なってたろうが!」


「んだとぉ!!」


 いつも通り言い争う大島と悟。


「うーん、私もこれくらい料理出来るようになれるかしら?」


「あんたは相当努力しないとだめよ茜」


 茜さんに現実を突きつける真奈美さん。


「お嬢様、明日のご予定ですが……」


「任せるわ」


「わかりました、それでは私もいただきます」


 メイド業務に戻っているかと思いきや、普通に飯を食べる山ノ内さん。


「城崎さんの学校はいつまで夏休み?」


「あ、皆さんと同じで八月末までです」


「そっか、もう夏も終わりだね」


「そうですね、今年は……良い夏でした」


 雑談をする城崎さんと高弥。

 そして……。


「先輩、私トマト嫌いなので上げます」


「残さず食え馬鹿」


「いや、でも人間って誰でも必ず食べれない物があると思うんですよ」


「良いから食え馬鹿、山ノ内さんが折角作ってくれたんだ」


「そ、それはそうですけど……」


 初白は俺に押し付けようとしたプチトマトを見て、苦い顔をする。

 そしてしばらくプチトマトを見つめた後、口の中に入れた。


「うっ!! ………んぐ……ま、まずい……」


「なんだ、ちゃんと食えんじゃねーか」


「相当頑張ったんですよ!! 見てなかったんですか!」


「はいはい、しかし美味いなぁ山ノ内さんの料理」


 いつも通り初白が俺に話かけてくる。

 あぁ、なんか良いなぁ……この空間。

 少し前まで友達と旅行なんて全然想像できなかった。

 まさか俺にこんなに多くの同世代の友人が出来る日が来るなんて、思っても見なかったな。


「先輩?」


「え? あぁなんだよ初白」


「なんかボーっとしてましたけど、大丈夫ですか?」


「あぁ、ちょっとな……」


「またどうせスケベな事でも考えてたんでしょ?」


「だからその話はだな……あぁもういいや、面倒くせぇ」


「……先輩」


「今度はなんだ?」


「ご飯食べたら、ちょっと話良いですか?」


「は?」


 初白は真面目な顔で俺にそう言った。

 初白が俺に一体何の用だろうか?

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