第205話

 城崎さんは俺の足に湿布を貼ってくれた。

 この旅行が終わったら、城崎さんとの事もハッキリしなくちゃいけない。

 きっとこの子は俺がまた危険なことをするって知ったら、心配するんだろうな。


「何をしてたんですか?」


「え? あぁ、ちょっと色々な」


 俺がそんなことを考えていると、城崎さんが俺にそう訪ねてくる。

 手合わせしてたなんて言えないよなぁ……昨日あんなことを言われてるし。

 俺がそんなことを考えていると、城崎さんが俺の傷口に消毒液を塗ってきた。


「いっ!!」


「……怪我した罰です」


「え?」


 城崎さんはそう言いながら頬を膨らませて俺の傷口に絆創膏を貼った。


「はい、終わりましたよ」


「あぁ、ありがとう……えっと……もしかして俺がなんでこんなになったかバレてる?」


「いえ、私は何も知りませんよ? ただ、この別荘の二階って砂浜が良く見えるんですよ」


 あ、これ完全にバレてる。

 一人で無茶しないとか言ったのに、こんな怪我をしたから怒ってるのか?

 てか、城崎さんに怒られるのって始めてだな……じゃなくて!!

 誤った方が良いよな?

 でもそんなことをしたら、ここにいる他の奴らにも俺と高弥の手合わせのことを話さなきゃいけないし……。


「し、城崎さんちょっと!」


「え? あ、はい」


 俺はそう言って城崎さんをリビングから連れ出した。

 廊下に連れ出した城崎さんは頬を膨らませなんだか不服そうな顔をしていた。

 

「私、先輩にあんまり無茶しないでくださいって言いましたよね?」


「えっと……はい」


「その翌日に怪我をするってどういうことですか?」


「いや、これは高弥が……」


「言い訳ですよね?」


 うっ……城崎さんってこんなに怖かったんだ。

 てか、めっちゃ怒ってるよ。

 やっぱりあんな話の後に怪我をしたからか?

 はぁ……俺は約束も守れないだめな先輩だなぁ……。

 

「すみません」


 なんてことを俺が思いながら言うと、城崎さんは俺の服の袖を強く掴み俯いてこう言う。

 

「……心配だっって言いましたよね……」


「え? あ、うん……」


「好きな人が傷ついて心配するのは島並さんだけじゃないんです……」


「………」


「自覚してください」


 その言葉がなぜだか俺にはすごく響いた。

 確かに俺は自分が傷つくことに関して無自覚すぎるのかもしれない。

 城崎さんが傷つけられて俺が怒るのと同じように、城崎さんも俺が傷つくと心配なのだと、俺はこの時実感した。

 それと同時にこの子は本当に俺のことが好きなのだと、心のどこかで自覚させられてしまった。


「城崎さんごめん、今度から気をつけるよ」


「はい……私もすいません……彼女でも無いのに、こんなに怒っておかしいですよね?」


「はい、確かにおかしいですね」


「え?」


 俺でも城崎さんでも無い第三者の声が聞こえ、俺と城崎さんは同時に声のした方を振り返る。

 するとそこには、音も気配も無く、いつの間にか山ノ内さんがアイスを食べながら立っていた。


「うぉっ!! や、山ノ内さん……いつからそこに……」


「『えっと……はい』のところからでしょうか?」


「いや、最初から居たなら言ってくださいよ!! 全然気が付かなかったです!」


「おもしろそうだったので、気配を消してみました」


「アンタは忍者か……」


「それよりも私はお二人の今日一日の行動の方が気になりますね……なんだか昨日とは全然違う様子を感じます。何かありましたか?」


「え? あ……べ、別に何も……」


「もしかして、城崎様と島並様が大人に? こんばんはお赤飯ですね」


「いや、飛躍しすぎだろ!! 告られただけだっつの!」


「先輩!!」


「あ……」


「ほう……なるほど……」


 山ノ内さんはそう言いながらニヤリと笑った。

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