第203話



 二日目も俺たちは無人島を楽しんだ。

 無人島を案内してもらい、釣りをしたり、みんなで無人島を満喫した。

 そして夕方、高弥から俺はある提案をされた。


「ねぇ平斗」


「ん? なんだよ」


「平斗は強くなって何がしたいの?」


「いきなりなんだよ」


 みんなが別荘で夕飯の準備をしている中、俺と高弥はビーチで昼間遊んだ物の片付けをしていた。

 今は高弥と二人で他には誰も居ない。


「警察や自衛官にでもなって国民を守りたいの?」


「いや……あんまりそういうのは考えたこと無かったな」


 俺はただ、俺の知っている人たちくらいは守れるくらいの力が欲しい。

 ただそれだけだった。

 

「今じゃ反社会的な組織が増えて来たし、自分の身を守るって意味で武術を習う人も増えたってニュースでやってたからね。今の世の中じゃ平斗みたいな人は結構多いのかもね」


「何が言いたいんだよ」


「……卒業した後のことってどう考えてる?」


「え?」


「平斗はどんな道に進むの? 警察になる? それとも自衛隊? それとも……民間のセキュリティー会社にでも行くの?」


 将来なんてまだ考えたことも無かった。

 自分がどんな大人になるかなんて想像したことも無い。


「父さんが言ってたよ、最近じゃ反社会的な組織が増えて、警察はてんやわんやだって。警察じゃ対処出来ないから、民間のセキュリティー会社まで参入してきて、随分血なまぐさい世界になったって」


「まぁ、昔よりは多いらしいからな……犯罪者」


「平斗」


「もう、なんなんだよさっきか……」


 そう言って俺が高弥の方を振り向くと高弥は真剣な表情で俺にこう言った。


「強くなるのは良い、でももう危険なことに首を突っ込むのはやめてくれ」


「なんだよ……急に」


「平斗、あの学校での事件もそうだけど、君は色々とトラブルに巻き込まれすぎだ」


「いや、そんなことは……」


「じゃぁ、覚えて置いてくれ、君にもしもしのことがあれば……今回のこの旅行に来たメンバーは全員悲しむ」


「………」


「君は色々な相手に対応するために僕に手合わせを頼んで来たね。今ここでなんてどうだい?」


「なんだよいきなり……」


 高弥はそう言うと、片付けをしていて出てきた手頃なサイズの木の棒を手に持った。


「平斗……防犯の意味なら君は今までの強さで十分だよ」


「十分なんかじゃない……このままじゃ俺は誰も……」


「誰も彼もを平斗一人が守る必要はないだろ?」


 そう言うと高弥は木の棒を構え、俺に向かって来る。


「てぇぇぇい!!」


「うぉっ!! いきなり何すんだ!!」


「はぁぁぁ!!」


「くっ! 馬鹿やめ……」


 やめろとそう言おうとしたが、高弥の目を見た瞬間、俺は言葉を失った。

 この目を俺は前にも見たことがある。

 本気の目だった。

 高弥は本気で俺を倒しに来ていた。

 なんで急に高弥がこんなことをし始めたのかはわからない。

 でも俺はこんな状況でもこんなことを考えていた。

 久しぶりに本気で高弥とやれると……。


「高弥……お前の言いたいことは良くわかんねぇ……でも……今はお前と久しぶりにやれることにワクワクしてるよ」


「………はぁ!!」


「ぐっ!!」


 高弥は掛け声と共に俺に木の棒を振るう。

 俺は拳で棒の打撃を受け流していく。

 本気の時の高弥は無言で相手を攻撃し続ける。

 発するのは掛け声のみだ。


「ふん!!」


「ぐはっ!」


 高弥の打撃が俺の脇腹に当たる。

 早い。

 太刀筋が素早くて目で追うのがやっとだった。

 打撃の強さからも高弥が本気なのがわかる。

 俺は思わず砂浜に膝をついた。

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