第198話

「それにしても静かですねぇ」


「まぁ、無人島だからな」


 静かなのは良いが、あんまり静かすぎてこのままじゃ眠れそうにないことか?

 まぁ、麦茶飲んだら部屋に戻ってスマホで動画でも見ながら寝落ちするのを待つか。


「なんか私、興奮して寝れなくなっちゃって〜」


「お前、朝からはしゃいでたのに疲れてねぇのかよ」


「うーん、なんか不思議と疲労感が無いんですよね」


 まぁ、アホだからな。

 疲れたっていう感情を忘れちまったのかもしれない。

 

「あ、どうせ先輩も眠れないから下りて来たんですよね?」


「どうせとか言うな」


 まぁそうだけど。

 

「じゃぁ、夜の砂浜でも散歩に行きません?」


「え? お前と? 嫌だよ、お前絶対俺を海に向かって突き飛ばすじゃん」


「先輩の中で私はどんな人間なんですか」


 そんな人間だと思ってるよ。

 まぁ、でも確かに眠れないのは事実だ。

 もしかしたら歩いて帰って来たら疲れて眠れるようになるかもしれない。

 俺は初白と共に別荘を出て目の前の砂浜に向かった。


「真っ暗ですね」


「そりゃあ街頭が一切ないからな」


「いやぁーなんか良いですねぇ〜。一切明かりがないっていうのも……星も綺麗だし」


「そうだな」


「まだ入学して四ヶ月しか経ってないのに、なんか不思議と色々なことがあった気がします」


「それは俺のセリフだっての……お前と知り合ってからろくなことがねぇ」


 まぁでも、こいつと知り合わなかったら、大島や悟とも知り合わなかったし。

 もしかしたら村谷との関係もあのままだったかもしれない。

 こいつとの出会いは俺にとってプラスになっているのかもしれないな。


「酷いことを言いますねぇー、こんな可愛い後輩が先輩に懐いてあげてるのに」


「別になつかなくていいぞ」


「またまた〜嬉しいくせにぃ〜」


 いや、別にお前から懐かれても俺は嬉しくないんだが……。

 そういえば、数時間前にこの砂浜で俺は城崎さんに告白されたんだよなぁ。

 あれからなんか一日経った気分で居たけど、まだ半日も経ってないのか。

 まぁ、間違ってもこのアホに話すのはやめておこう。

 絶対にからかわれるし、何を言われるかわかったもんじゃないからな。


「はぁ……お前は変わらねぇなぁ……」


「四ヶ月で変わる方がおかしいですよ」


「まぁ、それもそうだな……そういえば光音は他の奴とどうだ?」


「え? あぁ仲良くしてますけど?」


「そうか……なら良い」


「……随分光音さんのことを心配しますね」


「え? あぁ……ちょっとな」


「なんか今日の朝からずっとですよね? 一体どういう関係なんですか?」


「まぁ、ちょっとな……」


 この間の事件の話は初白には詳しく話していない。

 まぁ、話す必要が無いと言うのもあるが、一番はこいつに心配を掛けたくないのだ。

 こいつは普段こんなだが、弓島の事件の時も一番俺を心配していた。

 そんな奴についこの間も殺されそうになったんだ、なんて言えるわけがない。


「ふーん……ま、可愛いですもんね光音さん」


「あぁ、そうだな」


「認めるんですね」


「まぁな、可愛いのは間違いない」


「私には可愛いなんて一言も言ってくれないくせに」


「なんだよ、お前俺から可愛いって言われて嬉しいのか?」


「いえ、全然。むしろ気持ち悪いです」


「じゃぁ良いだろうが」


「でもなんか私だけ冷たくされてるみたいで嫌なんですよ!」


「我がままか!」


 はぁ、全くこいつは毎度毎度わけのわからんことを……。

 まぁでもこいつは顔だけは光音に負けず劣らず可愛いからな。

 でもそんなん絶対に声に出して言わねぇけど。 

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