第175話

 俺がそういうと、光音はなぜか顔を真っ赤にして下を向いていた。

 どうしたのだろうか?

 風邪でも引いたのだろうか?


「なるほど……それはもうそういう事と捉えてよろしいんですね?」


「はい?」


 そういう事とはどういうことだろうか?

 俺はただ大切な友人を次こそは守り切って見せると言っただけなのだが。


「あの、一体何の話をしてますか?」


「え? お嬢様を嫁に貰うと言う話じゃないんですか?」


「ぶふっ!! な、なんでそういう話になるんですか!」


「いや、先程大切な存在なんて言うから」


「それは友人としてって意味です!!」


 俺がそういうと隣にいた光音はなぜか深いため息を吐いた。

 なんだ?

 疲れたのだろうか?


「まぁ、若干そうじゃないかとは思いましたが……それにしてもあんまり思わせぶりな態度はやめた方が良いですよ」


「え? だからなんの事ですか?」


「もう良いです、お嬢様も随分面倒な方をお好きになったようで」


「……本当にそう……」


 そう言って笑みを浮かべる光音。

 二人は一体何の話をしているのだろうか?

 程なくして俺たちは警察からの事情聴取を受け、屋敷に戻ってきた。

 事の顛末を聞いた光音の父は俺と竹内さんをかなり評価してくれたが、実際俺はその評価を受けるに値しない。


「じゃぁ、俺はこれで……」


「はい、今日は帰ってゆっくりお休み下さい」


「まだ光音を捕まえようとした主犯の男は捕まってないんですよね?」


「えぇ、恐らくあの黒ずくめの男達も実行犯であるだけで主犯では無いでしょね」


「確かにあのリーダーの男も依頼主が居ると言っていましたからね……」


「旦那様は更にボディーガードを増やすと言っていますので、当分は大丈夫かと思いますが……出来れば私は貴方にはずっとお嬢様の側に居てほしいですね」


「俺なんかより、竹内さんの方が良いかもしれませんよ?」


「いえ、お嬢様は貴方を信頼しております。貴方の方が安心出来るでしょう」


「そう言われるとありがたいですけど……もう今はボディーガードとかそういうの関係無く、俺はあいつが困ってるならどこからでも助けにいきますよ」


「……お嬢様が惚れた気持ちも少しはわかります……」


「え? 何か言いました?」


「いえ、何でもありません。それではお気をつけて……」


「はい」


 俺は山ノ内さんにそう言って屋敷を後にした。

 家に帰る途中、ふとスマホを見ると城崎さんから四件のメッセージが来ていた。

 いつもあまり連絡をよこさないのに珍しいな……。

 なんて事を俺は考えながら、城崎さんのメッセージを読む。


【突然失礼します。あの……高柳さんとはどんな関係なんですか?】


【忙しかったらすいません! バイトって高柳さんのところでだったんですね】


【今日は助けてくれてありがとうございました】


【あの……何度もすいません。明日は道場に居ますか? お話を聞きたいんですけど……】


 どうやら俺がなんであんなところに居たのかや、光音との関係が気になっているらしい。

 まぁ、同じ学校の人のことだしな、気になるのも無理は無い。

 俺は城崎さんに簡単に返信を返し、再び足を進める。


「はぁ……また父さんに怒られるかな」


 きっと竹内さんから話は言っているだろうし、きっと帰ったらまた父さんに説教されるのだろう。

 しかし、俺にはそんなことよりも気がかりな事があった。


「どうすれば……強くなれるんだ……」


 山ノ内さんには投げ飛ばされ、あの黒ずくめの男には完敗だった。

 俺以外にも強いやつなんてこの世界にはゴロゴロ居る、それはわかっていたつもりだった。

 だけど……俺が思っている以上に俺は弱かった。

 認めなければいけない、俺はまだまだ弱い。

 俺を慕ってくれる悟や大島の為にも、そいつらを守れるくらい強くなりたい。

 俺は家に帰りながら強くそう思った。

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