第174話

「それにしても大変だったな山ノ内」


「う、うん……ウチのお嬢様を助けてくれてありがとう」


「いや、良いってことよ。それにうちの馬鹿な弟分が世話になってるらしいしな」


「痛いっすよ竹内さん……」


 竹内さんはそう言いながら俺の首をホールドしてくる。

 しかし、山内さんの竹内さんに対するこの態度……もしかして……。

 

「あ、じゃぁ俺はこれで、これから用事あるから」


「わかりました。また道場で」


 竹内さんはそう言うとどこかに行ってしまった。

 竹内さんが行ってしまった後も山ノ内さんは竹内さんを見ていた。

 

「山ノ内さん?」


「………」


「山ノ内さん!」


「え? 急になんですか大声で」


「いやさっきから呼んでんでしょうが」


「なんですか全く、私はこの後も色々忙しいんですよ」


「あぁそうですか……好きなんですか? 竹内さんの事」


「………何を言ってるんですか? 竹内君とはただ同じ大学というだけです」


「俺、あの人の連絡先持ってますけど」


「3万でどうでしょうか?」


「いや、何が!?」


「3万円で連絡先を買ってあげようって言ってるんです」


「やっぱり好きなんですね」


「誰もそんな事は言ってませんよ?」


「じゃぁ、売りません」


「6万出します」


「アンタまじか……」


「10万までなら出します」


「そんなの要りませんから。好きなんですよね?」


「……き、嫌いでは無いです……」


 頬を赤らめながらそんな事を言われてもねぇ……しかし、竹内ってモテるんだなぁ……。

 まぁでもあの人の浮いた話なんて聞いた事無いし、山ノ内さんにも一応世話になってる……というか、全然役に立たなかったからな……せめてもの罪滅ぼしだ。

 俺はメモ用紙に竹内さんの連絡先を書いて山ノ内さん渡す。


「もし、俺に何かあったときは竹内さんに連絡して下さい。そういうことなら良いでしょ」


「そ、そうですね……き、緊急時の連絡先は多いほうが良いですからね」


 そう言って山ノ内さんは俺の手からメモ用紙を奪い取る。

 正直に好きだと言えば良いのに……。

 

「まぁ、それはそれとして……なぜ私の指示を無視したんですか?」


「それは……すいません」


「一歩間違えば、貴方は死んでいたかもしれないんですよ」


「はい……」


 何も言い返せなかった。

 俺は竹内さんがいなければ死んでいた。

 山ノ内さんの言うとおりだ。


「少しは考えて行動して下さい」


「はい」


「……まぁでも……お嬢様を救ってくれたことには本当に感謝しています。何度もありがとうございます」


「……さっきも言ったとおり俺は何もしてません」


 そう俺が言うと、お嬢様が俺の腕を掴んでこう言った。


「そんな事無い」


「え……」


「お嬢様?」


「……何度も……何度も貴方は私を……助けてくれた。ありがとう」


 いつも口数の少ないお嬢様が俺にそう言った。

 なぜだろうか、そのお嬢様の顔が心底安心したような表情で……俺はそんなお嬢様の表情に救われた。

 もっと強くならなければと、俺はお嬢様の顔を見てそう思った。

 このままでは俺はこのお嬢様を守れない。

 だから俺はお嬢様にこう言った。


「次は必ず、お嬢様を守れるくらい強くなります」


「……うん」


「あらあら、犯人は捕まったというのに、まだお嬢様を守ると?」


「はい、次にまたお嬢様が危険な目にあったら、俺は絶対に助けます」


「それは……このままお嬢様の専属のボディーガードになるとそういうお話ですか?」


「いや、そういうのじゃありません。お嬢様……光音はもう俺の大事な存在ですから」


 そうだ、もう知らない仲でもない。

 光音はもう俺の大切な友人だ。

 初白や城崎さん同様、俺の大切な存在だ。

 だから……彼女の前でもう二度とあんな無様はさらさない。

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