第172話

「小細工を使わず突撃してくるか、単純な力勝負がしたいのか……なら受けて立つぞ!!」


「ごちゃごちゃうるせぇんだよ!!」


 竹内さんは男の攻撃を避けることなく、男の拳を腹で受け止めた。

 俺はあれで吹き飛ばされた。

 しかし、竹内さんは男の拳を受け止め、にやりと笑う。


「いやぁ……なかなかではあると思うけど……力だけだな」


「な、なに!?」


「良いか、パンチって言うのはなぁ……こうやるんだよ!!」


「なっ! あがっ!!」


 竹内さんはそう言いながら、男の腹に同じように拳をたたき込む。

 男はそのまま吹き飛ばされ、その場に倒れた。


「あ……あがっ……」


「おぉ、なかなか丈夫だな、俺の全力を受けて意識が飛ばない奴は少ないんだぞ」


「な……なぁ……ば、化け……もの……」


「肺はつぶれてないだろ? それにあばらだって無事なはずだ」


 やっぱり竹内さんは強い、俺はこの光景を目にしながらそう思った。

 俺が苦戦し、やられそうになった相手を一撃で倒した。

 やっぱりこの人と俺には大きな差がある……簡単には埋まらない大きな差が……。


「おい平斗」


「た、竹内さん……すいません」


「全くだよ、間一髪じゃねぇか馬鹿弟」


「いでっ……」


 竹内さんはそう言いながら、俺のおでこにデコピンをした。

 

「ど、どうしてここが?」


「あぁ、学校について中に入ったら、急に襲われてな。仕方ないからそいつら倒してボスの場所を聞いたんだ」


「簡単に言いますね……」


「まぁでも……間に合ってよかったよ」


 竹内さんはそう言った後、立ち上がって俺の方を見る。


「ただ……お前は俺の言うことを聞かずに危険な場所に足を踏み入れた……また俺や師範代、そして師範代の奥さんに心配をかけるとこだったなぁ……」


「た、竹内さん……な、何を?」


「まぁ、弟を叱るのも兄貴の務めだ……今回はげんこつ一発で許してやるよ」


「え!? い、いや……竹内さんのげんこつって!」


「さぁ、歯ぁ食いしばれぇ!!」


 そう言って間もなく、俺の頭に竹内さんの重たいげんこつが降ってきた。


「いっでぇぇぇぇぇぇ!!」






 目の前で戦ている彼を見て、私は安心感と不安を感じていた。

 リーダーの男と彼の実力には差があった。

 体格のせいか彼の方が振りに見えた。

 そして、彼が銃を突き付けられた瞬間、私の安心感はどこかに行ってしまった。


『やめて、殺さないで』


 私は心の中でそう思った。

 そしていつの間にかそれの言葉を私は声に出そうとしていた。

 しかし、口を塞がれているため上手く声を発することが出来ない。

 

『別に忠誠心なんかでここにきてねぇよ……俺はただ友達を助けにきただけだ!!』


 私にとって初めての友達が、私の前で殺されようとしている。

 なのに私は何も出来ない。

 無力な自分が嫌だった、守られるだけの自分が嫌だった。

 目の前で大切な人を失うのが嫌だった……。

 いつもなら大声なんて出さない、いつもならこんなに涙を流さない。

 なのに……私は大粒の涙を流しながら、叫ぼうとしていた。


「さぁ、それじゃぁ……あばよ」


 そう言って男は銃の引き金を引こうとする。

 私は必死に叫ぼうとする。

 しかし、声が上手く発せられない。

 このまま彼が死ぬのを見ているしかないとそう思った。

 しかし、次の瞬間聞こえてきたのは銃声ではなく男が吹き飛ばされた音だった。

 何が起こったのか私は全く理解できなかった。

 彼の隣には別な男性がニコニコしながら立っていた。


「たく……困った弟分だ……兄貴の言うことも聞けねぇのか?」


「た…竹内……さん……」


 そこからは一瞬だった。

 やってきた男の人が一撃でリーダーの男をやっつけてしまった。

 その瞬間、私はその男の人は誰なのかとか、彼とどういう関係なのかとかよりも、彼が無事だったことに安心していた。

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