第171話

「別に忠誠心なんかでここにきてねぇよ……俺はただ……友達を助けにきただけだ!!」


 俺は叫ぶと同時に相手の懐に潜り込む。

 近づいて拳銃さえ奪えれば勝機はある。

 この男が拳銃なしにそこまでやれるとは思えない。

 だが、この男が他の奴らと同じとは思えない。

 身のこなしや俺の正体を見破った感の鋭さ、そしてこの体格……強い……。

 さっき倒したチンピラみたいなやつらとは違う……。


「ふん!!」


「ガキが! 調子に乗るな!」


「うぉっ!」


 男は拳銃を捨て、懐からナイフを取り出し、俺に向けてくる。

 まさか銃を捨てるなんて、こいつ何を考えてる?

 ガキだからって舐めてるのか?

 それとも銃よりも体術に自信があるのか……。


「意外そうな顔してるな」


「あぁ、自分から優位性を捨てた馬鹿が居たもんでなぁ……」


「こんなおもちゃ、俺には必要ねぇんだよ。さぁ、掛かってこい」


「言われなくても!!」


 俺は心のどこかでこの男に素手で負ける訳がないという自信を持っていた。

 しかし、俺のその自信は一気に打ち砕かれた。


「ふん!」


「遅いなガキ!」


「な、あがっ!! あ……あが……」


 俺は男の拳を腹に受けた。

 その一撃が異常に重たく、俺は一瞬何が起こったのかわからなかった。

 何が起きた……肺が苦しい……うまく息が出来ない、なんなんだこれ……。

 気が付くと、俺の目の前には学校の天井が広がっていた。

 

「な、なにが……」


「ガキ……大人を舐めんじゃねぇよ……」


「あがっ……」


 俺は胸を踏みつぶされ、そのまま床に寝頃がる。

 なんなんだこの男……全く歯が立たない。

 まさか竹内さんや父さん意外に俺が手も足も出ないなんて……。

 自分の力には自信があった。

 そこら辺の大人にも負けない実力をつけたと思っていた。

 だからお嬢様を助けにきた……なのに……なんで……。


「もったいねぇなぁ~、実力もあるしまだ若い。こんなバカなことをしなければ、いろいろな未来があったろうに」


 そう言って男は俺の額に拳銃の銃口を押し当てる。

 

「さぁ、この世とお別れの時間だ。あとは永遠にお寝んねしてな」


「んー!! んー!!」


「あぁ? おいおい、さっきまで無口だったお嬢様がお前の為に泣いてるぞー。良かったなぁ~良いお嬢様で……まぁ、目の前で殺されるんだからあの子にとってはトラウマだろうがな……」


 体が動かない。

 息が上手く出来ず、力も入れられない。

 このままでは……やられる……。

 まずい……どうする……くそっ……。


「さぁ、それじゃぁ……あばよ」


「う……くそっ……」


 俺は死を覚悟した。

 まさかこんなことで死ぬなんて……相手を見くびっていたのは俺の方だった。

 くそっ!

 なんで俺はいつもこうなんだ……後先考えずに行動して……。

 せめて……せめてお嬢様だけでも……助けたかったのに……。

 悔しくて悔しくて仕方がなかった。

 しかし、そんな俺にはもう何も出来ない。

 もう終わりだ……そう思った時だった。


「おい」


「あ? ぐはっ!!」


「はぁっ! はぁ……はぁ……な、なにが!?」


 俺を踏みつけていた男の体が突然吹っ飛んだ。

 一体何が起こったのかと俺は状態を起こして隣に立っている人物に目を向ける。


「たく……困った弟分だ……兄貴の言うことも聞けねぇのか?」


「た……竹内……さん……」


 そこに居たのは、私服姿の竹内さんだった。

 今のは竹内さんがやったのか?

 いや、そんなの考えなくてもわかる。

 そんなことが出来るのは竹内さんしかいない。


「いてて……またガキか……」


「よぉ、おっさん。うちの弟分が随分世話になったなぁ……それに……アンタ強そうだな」


「なんだてめぇ……そのガキの兄弟か?」


「まぁ、そんなとこだ。それよりも俺とやろうぜ、平斗を倒すほどだ、かなり強いんだろ?」


「何を言ってやがる、クソがき!」


 男はそう言って竹内さんに向かっていく。

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