第169話



「さぁーて、大人しくついてきてくれたことには感謝するぜ~お嬢様」


 私は今、空き教室で黒ずくめの男三人に囲まれていた。

 腕はロープで縛られ、口には布を巻かれている。

 黒ずくめの男達の目的は案の定私だった。

 男たちは私を別室に連れてくると、口と腕を縛って自由を奪った。

 

「おい、まだ繋がんねーのか!」


「はい、裏口に行ったはずなんですけど……」


「たく……何をしてやがるんだ……」


 先ほどから私に手荒な真似をしないところを見ると、きっと私をまだ無傷で捕らえておきたいという事なのだろう。

 まぁ何が目的なのかはわからない、考えたくもなかった。

 今、私の中にある感情は純粋な恐怖だけだった。


「っち……依頼主も面倒なことを頼みやがるぜ……無傷で捕らえろなんてよぉ……」


「まぁ、でもこの仕事はなかなか金払いも良いし、必要な道具に拳銃まで支給してくれたじゃないっすか」


「確かにな、それに逃走用のルートまで用意されて、かなり楽な仕事だったな」


「だからですかね、さっき女子生徒を追いかけてった二人、そのままお楽しみなんじゃないっすか?」


「馬鹿が、ガキなんか相手して何が楽しいっていうんだ」


「まぁ、若いって魅力ですからね」


「たく……あとは逃げるだけなんだ、さっさと帰ってくるように言えよ」


「へーい」


 男達は先ほどから何かを待っている様子だった。

 もしかしたら私はこのまま別なところをに連れていかれるのだろうか?

 一体何をされるのだろう……。


「そう言えば、依頼主から電話はあったのか?」


「はい、今こちらに向かっているそうで」


「さっさと迎えに来てほしいもんだぜ、早くしねえと警察が着ちまう」


「まぁ、この状況で来てもこっちには人質が居ますから」


「それはそうだが、安全に逃げられるに越したことはない」


「それもそっすね」


「まぁ、そう言うわけだお嬢様、アンタに恨みはねぇが少し大人しくしておけよ~」


 そう言って黒ずくめの男は私に拳銃をちらつかせてくる。

 その動作の一つ一つが私を恐怖に陥れる。

 早く誰か助けにきて……。

 彼はこの前、こんな危機的な状況から私を救ってくれた。 

 しかし、その彼は今は近くには居ない、でも私の頭の中には彼の顔が浮かんだ。

 来るはずなんてないのに……私は彼が現れるの祈っていた。

 

「そう言えば、さっきの教師がガキ一人を学校に誘導してましたけど、大丈夫すっかね?」


「あぁ、トイレを探してたガキか? 声だけだったからなぁ、だが校内に入るにも裏門にも正門にも俺達の仲間がガードマンと入れ替わってる。きっと入れなくてどっかに行っただろ?」


「まぁ、そうですよね」


 黒ずくめの男たちがそんな話をしているときだった、急に教室のドアが勢いよく開けられ、別な黒ずくめの男が勢いよく入ってきた。


「た、大変だ!!」


「どうした?」


「まさかサツが?」


「い、嫌違う……さっき裏門の近くを通ったんだが、仲間がやられてて」


「なんだと!?」


「し、しかもその先の校舎裏には仲間が二人縛られてた! 校内に誰か入ってきてる!!」


「まさか、あのガキが?」


「そんなわけねぇ! あいつらは銃だって持ってる! そこらへんのガキなんかに……」


「とにかくまずい! ここは一旦入り込んだ奴を探そう!」


「そ、そうだな! まだ逃げる手はずも整ってねぇし……」


「じゃぁ、俺はとりあえずあっちの校舎を探す!」


「待て」


 入ってきた黒ずくめの男がそう言ったときだった。

 私を縛った黒ずくめの男が静かに話始めた。

 おそらくこの人がリーダーなのだろう。

 覆面で顔を隠しているが、その人が入ってきた男の人を睨んでいるのが分かった。


「なんだ? どうした?」


「お前……誰だ?」


「………」


「え? 頭? 一体何を……」


「この作戦が始まる前、俺は全員に声を掛けに行った、仲間の特徴を記憶するためだ。だがこいつはその時に見た感じがしねぇ……」


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