第165話



 私は友人という存在が出来たことがない。

 だから、友人という物はなんなのかわからない。

 そもそも私と友人になろうとした人間なんて今までいなかった。

 高柳家の一人娘、それが私だ。

 そのせいかどうかは分からないが、中学の頃はみんなから距離を置かれていた。

 専属のメイドが居て、いつも送り迎えをしてもらっている私をみんな遠ざけていた。

 私はどうやら他の生徒から住む世界の違う人間だと思われていたらしい。

 だから私はいつも一人だった。

 そして、それは高校に入学してからもそうだった。

 今度は比較的私と近しい存在の多いお嬢様学校に進学したけど、私は馴染むことが出来なかった。

 小中学校の頃にろくに友人の居なかった私が友人を作ることもできず、私はまた学校で孤立していった。

 でも、私は昨日生まれて初めて友人が出来た。

 ただの臨時ボディーガードのバイトだった。

 でも、あの人は私を命がけで守ってくれて……それに私を理解しようとしてくれた。

 それが私はどうしようもなくうれしかった。

 最近はなぜかあの人の事ばかり考えてしまう。

 なんでだろう?

 それに……あの人と一緒に居れるなら、私は今の状況もそう悪くはないと思い始めていた。


「………早く帰りたいな」


 私はそんなことをつぶやきながら、窓の外を見る。

 今日もあの人は私と一緒のゲームをしてくれるだろうか?

 私がそんなことを考えていると教室のドアが開く音が聞こえた。

 先生が来たのだろうか?

 そう思って入り口を見るとそこに居たのは先生ではなかった。


「動くな、静かにしろ」


 覆面に黒ずくめの服装……間違いなく先生ではなかった。

 私は背中に嫌な汗が流れるのが分かった。

 




「しっかし……広い学校だなぁ……」


 俺は学校の塀の周りを歩きながらそんなことを考えていた。

 流石はお嬢様学校、中庭に噴水がある。

 しかも校舎の外装もなんだかオシャレでうちの学校のボロ校舎とは雲泥の差だ。

 そんなことを考えながら歩いていると眼鏡を掛けた男性が前から歩いてきた。

 裏口から出てきたところを見ると、学校の責任者だろう。

 丁度良い、トイレに行きたいと思っていたし、トイレを借りられないか聞いてみよう。


「すいません」


「え!? あ、な……なんだい?」


 なんでこの人、こんなに怯えてるんだ?

 まぁ良いか。


「自分は高柳家でお世話になっている使用人なんですけど、学校のお手洗いをお借りしたいのですが大丈夫でしょうか?」


「え? あ、あぁ構わないよ……」


「ありがとうございます。ところでトイレはどこを……」


 そう尋ねた瞬間、眼鏡の男性は今にも泣きそうな目でフルフルと首を横に振った。

 なんだ?

 明らかに様子がおかしい……。

 

「と、トイレは一階の教職員用を……つ、使ってくれ……」


「そうですか……ところでトイレの場所……」


 そう言いかけると男性は俺のポケットを指さした後、唇に人差し指を当て、何も言わないように指示を出す。

 なんだ?

 明らかに挙動がおかしい。

 もしかして……中で何かあったのか?

 この人は何らかの理由でそれを俺に口で伝えることが出来ないのか?

 さっきポケット指さしたが……もしかして俺のスマホを指さしているのか?

 俺は会話を続けながらスマホを取り出し男性に見せる。


「トイレはどの辺にありますか?」


「う、裏口から入って右に曲がってすぐだよ……」


 男性はスマホを渡せいたげな動作を繰り替える。

 俺は男性にスマホのロックをはずし、メモのアプリを起動して渡した。


「ありがとうございます」


「い、いえいえ、授業中だから静かにね」


 そして男性はスマホに何かを打ち込んで俺にスマホを返した。

 そのスマホにはとんでもないことが書かれていた。


【黒ずくめ男性学校にに入ってきた。生徒危険、警察を呼べ】


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