第164話



 翌日、俺は言われた通り朝の七時に屋敷に来ていた。

 

「お、おはようございます……」


「おはようございます。今朝は眠そうですね」


「まぁ……普通に学校に行くよりも早い時間に起きたんで」


「これも仕事です、今日もよろしくお願いしますね」


「山之内さんにそう言われてもなぁ……」


 お嬢様は朝食を済ませ現在は朝の身支度を整えているらしい。


「あれ? そう言えば、山之内さんはそう言う身支度を手伝わなくていいんですか?」


「はい、何から何まで使用人の私に頼っていてはいけないと旦那様が、私はお嬢様の身の回りのお世話をすると言って基本的にはお手伝いです。何から何までやるわけではありません」


「そうなんすか……俺はてっきり着替えなんかも山之内さんが手伝っているもんだと……」


「あら? もしかしてお嬢様の着替えを手伝いたかったんですか? まったくこれだか男性は……」


「いつ俺がそんなことを言ったんですか……」


 俺と山之内さんは光音お嬢様を部屋の外で待ちながらそんな話をする。

 

「お嬢様とはどうですか? うまくやっていけてますか?」


「え? あぁまぁ……俺は上手くいってると思ってるんですけど……お嬢様はどうなんだか」


「まぁ、お嬢様はあまり表情を表に出す方ではないですから、しかし嫌われていないことは確かですのでご安心ください」


「なんでそんなことがわかるんですか?」


「本当に嫌いな人とお嬢様はゲームをしません」


「え?」


「まぁ、嫌われてないから安心しておけクソガキということです」


「いやなんで最後貶したの!?」


 そうこうしている間にお嬢様は学校の制服に着替え、部屋から出てきた。


「お待たせ……」


「いえ、それではお車に」


 まぁ、当たり前だが城崎さんと同じ制服だ。

 でもいつも見ているのは私服姿なので、なんだか新鮮な感じがする。

 俺はお嬢様の後ろを山之内さんと共に歩く。


「島並様、家から出た際は周囲の警戒をお願いいたします。何があるかわかりませんので」


「わかってますよ」


 しかし、この使用人スタイルで外に出るのは少し目立つのではないのだろうか?

 こんなどこからどう見ても『ザ・執事!』みたいなスタイルなんだか恥ずかしい……まぁ仕事だし仕方ないのだが……。

 車に乗り、俺達はそのままお嬢様の通う清浄学院に向かう。

 もちろん登校日なので生徒は多く、みんななんだか良いところお嬢様感が半端ない。

 うちの学校の女子とは雲泥の差だな……。


「行ってらっしゃいませお嬢様」


「いってくるわ……」


 校門前で見送りを済ませ、俺達はそのまま校門の外で待機することになった。

 

「学校内は護衛しなくて良いんですか?」


「見ての通り、校門前にはガードマンが二人、学校裏手にも同じくガードマンが居ます。それに学校内にも警備員が常駐しており、我々が入っていく必要はありません」


「すごい警備ですね」


「それだけの学校ということです」


 普通の学校とは何もかもが違うんだなと考えていると、校門前を見慣れた女性生徒が通過していった。


「ん? あれってもしかして……」


 間違いない、城崎さんだ!

 俺は何となくこの姿を見られるのが嫌で山之内さんの陰に隠れた。


「どうしたんですか?」


「い、いえ……ちょっと知り合いがいたので……」


「あぁ、それでこんな格好を見られたくなくて私の背後に回り、胸を揉みしだこうとしたんですね」


「最後以外あってますね……」


 まぁ、城崎さんに見つかったとしても別にあの子は俺の恰好を見てからかったりなんてしないだろうが……でもなんかこの恰好を見られるのは嫌だ。


「それでは生徒の方々もあらかた校門に入られたようですし……周りのパトロールをお願いします」


「あぁ、校門の外を俺達は見回るんですか」


「はい、備えあれば患いなしです。それでは私はここで休憩していますので……」


「おい、どっから出したその椅子とお茶は!」


 ダメだこのメイド、まるでやる気がない。

 俺は本当にこんな人に投げ飛ばされたのだろうか?

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