第160話

「えっと……あの……どういう意味でしょうか?」


「そのままの意味です。息子さんをいただきたいんです」


「えっと……」


 山ノ内さんの言葉を聞き、ウチの両親は困惑していた。

 このメイドは人の家で何を言っているんだ……。


「おい!」


「あら、お早いですね。貴方に言われたとおりご両親を説得しているところです」


「一体何の説得をしてるんですか! 誤解を招きそうな言い方で!!」


 俺が山ノ内さんにそう言っていると、困惑した表情で母さんが俺に訪ねてくる。


「へ、平斗? も、もしかしてこの方って……平斗の彼女?」


「母さん違うんだ、この人は!」


「平斗、いくら趣味は自由といっても……メイドさんは……」


「だから違うんだって父さん!」


「それでは私はこの辺で、こちらに業務の内容などをまとめておきましたので目を通しておいてくださいね」


「おい! 爆弾を投下してそのまま帰る気ですか!!」


「私もそろそろ仕事に戻りませんと」


「あ、コラ!!」


 そういって山ノ内さんは家を後にしていった。

 その後の父さんと母さんへの説明が大変だった。

 一瞬、俺がメイド萌の変態になるし、マジであの人なんなんだ……。





 それから二日後、俺は仕事をする為にまたしても高柳家に来ていた。

  

「またここに来ることになるとはな……」


 俺は渡された使用人の服に着替え、山ノ内さんから屋敷を案内されていた。


「これからとりあえず一週間、貴方はこの屋敷で私と共にお嬢様の身辺警護をしていただきます」


「改めて全部の部屋を見るとかなり大きな屋敷ですね」


「まぁ、広いだけで使ってない部屋も多いですけどね」


「アンタがそれを言うのかよ」


 俺と山ノ内さんはそんな話をしながら、お嬢様の部屋に向かった。

 あのお嬢様はまた部屋で一日中ゲームばかりしてるのだろうか?

 お嬢様のくせに随分インドアな趣味だよなぁ……。


「お嬢様、山ノ内です。島並様をお連れしました」


 山ノ内さんはそう言った後、ドアを開けて部屋に入っていった。

 てか、電気が付いてないけど?


「お嬢様、一体いつまで寝ているんですか?」


「はっ!? え? うそっ!!」


 まさかまだ睡眠中とは!

 俺は部屋の中に入り、すぐさま部屋の外に戻った。


「あら? なぜ中に入らないのですか?」


「なんでって、女子が寝てる部屋に入るわけにはいかないだろ!」


「何を言ってるんですか? こんなことでビビってたら夜這いなんて出来ませんよ!」


「いや、する気ねぇよ!! アンタは俺をなんだと思ってんだ!」


「はぁ……お嬢様も起きないし、よいしょっと」


「早くお嬢様を起こして下さいよ」


「クークー……」


「いやなんで一緒に寝るんだよ!」


「んあ? あぁ……つい眠かったもので」


「はぁ……大丈夫なのかよ……」


 なんだか心配になてきたぞこのバイト。

 てか、思わず部屋に入っちまったけど……こんだけ騒いでるのにお嬢様は起きないのかよ……。

 お嬢様は大きなベッドでぐっすり眠っていた。

 金持ちのお嬢様と言うだけあって、来ている寝間着も高そうだ。

 というか……俺、女子の寝間着姿見たのはじめてなんだけど……。


「や、やっぱり俺は外に出ています」


「お嬢様起きてくださーい、部屋に殿方が入って来てますよぉー」


「なんでわざわざ言うんだよ!!」


 そうこうしている間にお嬢様は寝ぼけた様子で目を覚まし、上体を起こして目をこする。

 

「うーん……山ノ内さん………おはよう」


「はい、おはようございます。清々しい朝ですね」


「もう昼だけどな」


「え?」


「あ……」


 その瞬間俺は寝間着姿のお嬢様と目が合った。

 今は8月、もちろん寝間着は薄着で肌の露出も多い。

 お嬢様は見る見るうちに顔を赤く染めていく。


「い……」


「やべ……」


「いやぁぁぁぁぁぁ!!」


 俺はお嬢様に叫ばれ、すぐさま部屋の外に出た。

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