第158話



「じゃぁ先輩、また今度」


「へいよ」


 夕方、俺は初白と駅前で別れた。

 初白に選んでもらった服を買い、俺は家に帰宅しようとしていた。

 なんだかんだで一日初白と居てしまった……。

 今日は道場は休みをもらっていたから心配は無いのだが、初白の相手をしたせいでなんだか疲れてしまった。


「はぁ……疲れた」


 肩を落としながら歩いていると、俺はふと誰かの強い視線を感じた。

 一人……恐らくだが女性だ。

 なんで俺に視線を?

 俺はそんな事を考えながら電車のホームに向かい、電車を待つ。

 付いてきた?

 女性の服装はパーカーに帽子姿で明らかに怪しい。

 気にはなりつつも俺は何もせずにそのまま家へ帰る道を歩いていく。

 しかし………。


「………」


「………」


 ずっと付いて来やがる……。

 なんなんだ?

 俺に何か用でもあるのか?

 どうするか……このまま巻くのは簡単だ。

 でもただ巻くだけじゃ、また付けられる恐れがある。

 ここは話を聞く必要があるな……。

 俺はそう考えながら路地の方に足を進める。

 路地に入ってきたところを待ち伏せする作戦だ。


「さぁ……来い」


 一人でそんな事を呟きながら、女が来るのを待つ。

 しかし、女は待っても待ってもやってこなかった。

 気のせいだったのか?

 なんて事を考えながら、俺は路地から大通りの方を覗く。


「待ち伏せは良い手だとは思いますが、誘いこもうとしているのがバレバレですよ?」


「うぉっ!! ってアンタは」


「お久しぶりです、美人メイドの山ノ内です」


 自分で何を言ってるんだこの人……。

 この人は俺がこの間バイトで行ったお屋敷のメイドさんだ。

 どうしてこの人が俺の事を尾行していたのだろうか?


「なんですか、俺の事を尾行したりして、迷惑行為だと思いますが」


「別に私だって貴方を尾行したくてしたわけじゃありませんよ」


「相変わらずですね……」


 マジで嫌そうな顔でそう言うからムカつく。

 てか、この人確かお嬢様の専属メイドだったはずなのに、こんなところで俺を尾行なんてしていて良いのか?


「それで、俺に何の用なんですか?」


「貴方の身辺調査をお嬢様から仰せつかりまして、貴方の身辺や夏休みの行動などを調べておりました」


「なんでそんな事を……」


「それは私の口からはなんとも……にしても……顔の割に筋分とおモテになるんですね」


「顔の割にってどういう意味ですか!」


「今日も後輩の女の子と朝からデートですか……しかもこの前は別な女の子とデートでしたね」


「いや、今日のはただ無理やり呼び出されただけで……」


「呼び出しに応じて二人で出かけた時点でそれはデートだと思いますが?」


 なんなんだこの人は……一体何が言いたいのだ?

 まぁ、この人も主人であるお嬢様も良くわからない人達だったからなぁ……。


「まぁ雑談はここまでにしましょう、本題はここからです」


「まだ何かあるんですか?」


「えぇ、貴方にもう一度お嬢様のボディーガードをしてほしいのです。まぁ形式上は私と同じ使用人と言う形になりますが」


「なぜですか? 誘拐事件はまだ解決していないんですか?」


「はい、貴方が捕まえたあの男は下っ端も下っ端だったらしく、情報も満足に得られませんでした。警備を増やしたとはいえ、お嬢様はどこで狙われるかわかりません、私と一緒にお嬢様に四六時中張り付き、お嬢様の警護をしていただきたいのです」


「そんな大事になっているなら、俺以外のちゃんとしたボディーガードを雇えばいいじゃないですか?」


「いえ、この前のように使用人の中に誘拐犯が紛れている可能性もあります、なので信頼のおける貴方にお願いしたいのです」


「信頼っていっても……そこまでの仲じゃないだろ……」

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