第157話

「これはどうですか?」


 そう言って初白は半袖のパーカーを手渡す。


「あぁ……まぁ良いけど、なんか生地厚くね?」


「じゃぁこれは?」


 今度渡してきたのはTシャツだった。


「いや『夏男』って! なんだこのプリント! 普通にダセェだろ!」


「もうー我がままですよ!」


「いや、お前これは無いだろ!」


 初白が俺の服を選んでくれているのだが、なかなか良い服がない。

 最近の流行と俺の趣味が合わないのだ。

 

「もう、折角選んであげてるんですから、もっと先輩も協力的になって下さいよ」


「そうは言ってもこの『夏男』は絶対に嫌だ」


「まぁそれはネタですけど」


「おい」


 その後も初白はなんだか楽しそうに俺の服を選び始めた。

 

「うーん、先輩って短パンとかも似合いそうですよねぇ〜、帽子なんかも良いんじゃないんですか?」


「お前楽しそうだな」


「まぁ、私人の服とか選ぶの好きですから」


「それは初耳だな」


「友達と買い物行った時、良く選んでるので」


「そうなのか? てかお前友達居たの?」


「先輩、怒りますよ」


 そんな話をしながら、俺は初白から渡せる服を試着していく。

 

「うん! これが一番良い気がします」


「そうか? まぁ確かに……悪くない感じはする」


 初白は俺の試着した姿を見てそういう。

 意外とこいつの選ぶ服は悪くない。

 確かに言うだけあってなかなかセンスが良いようだ。


「大きめのサイズが最近は流行りなんですよ」


「そうなのか……まぁ折角だし、お前に選んでもらったこの服買っていくわ」


「なんだか先輩素直ですね、ようやく私を可愛い後輩だって認めました?」


「服装のセンスだけは認めてやる」


「むー、可愛い後輩なのに〜」


 そんな事を言いながら頬を膨らませる初白。

 俺は試着室のカーテンを締め、着替えをしながら初白に話掛ける。


「お前、高弥に振られたことはもう気にしてないのか?」


「え? あぁ……まぁ……」


「そうか……まぁあんまり気にしすぎるのも良くないしな」


「先輩も協力してくれたんですけどね……」


「まぁ、正直少し俺はお前に期待してたんだけどな」


「え?」


「だって、あの高弥が唯一興味を持った女子だぞ? 友人としては期待もするさ、あいつには良い相手が見つかれば良いとずっと思ってたからな」


「なんで先輩がそんな事を?」


「……あいつは昔、女性関係でひどい目に会ってるからな……」


「え? そうなんですか……」


「あぁ、やっぱり高弥はそこまで話してくれてないのか……まぁ今度教えてやるよ」


「え? 教えてくれるんですか?」


「ん? なんだ別に良いか?」


「い、いえ、正直めちゃくちゃ気になるんですけど……先輩の過去は全然教えてくれなかったので……」


 あーそういうことか……まぁあの時は自分の事ってこともあったしな。

 別に高弥の出来事が小さい事だから話す訳じゃない。

 ちゃんと高弥に許可も取るつもりだが、高弥ならきっと初白に話しても問題ないと言うと思ったからだ。

 それに……。


「まぁ、一応お前のことは信頼してるつもりだからな」


「え……」


「確かに生意気だし、アホだけど……」


「おい」


「お前はちゃんと人を見る人間だし、ちゃんと人を許せる奴だからな……俺も高弥も信用してるんだよ」


「………」


 そう言った瞬間、初白の声が聞こえなくなった。

 ちょうど着替えも終わったので、俺はカーテンを開けて初白の様子を見ようとする。


「初白?」


「あ、開けないで下さい!!」


 俺がカーテンを開けようとすると、外の初白が試着室のカーテンを手で抑え始めた。


「な!? お、お前なんで閉めるんだよ! 開けろよ!」


「う、うるさいですよ!! な、なんで急にそんな……もう! 少しそこで待ってて下さい! 今は顔見られたくないんです!」


「いや、なんでだよ!!」


 結果、俺は三分ほど試着室の中に閉じ込められた。

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