第153話

「あ、アンタ! 暗いからって瑠香ちゃんに変な事をするんじゃないわよ!」


「いや、しませんよ。何を言ってるんですか」


「お、男なんて皆獣でしょ」


「それは人によりますねので」


 まぁ、この人の経験上そういう考えになっても仕方ないのだが……。

 と言うか、俺と城先さんが映画に行くだけでなんでこの人がこんなに色々言ってくるんだ?

 

「先を越されたわ……あの子、奥手に見えて以外と積極的なのね……」


「一人で何ブツブツ言ってるんですか?」


「な、何でも無いわよ! 何でも無いから、アンタ今度私に付き合いなさい!」


「え? いや、付き合えといわれても一体どこに?」


「買い物よ!」


「またですか? この前付き合ったじゃないですか」


「今回は結構大物を買うのよ、良いから付き合いなさい!」


「はぁ……強引だなぁ……」


「そ、それとご飯も奢りなさい!」


「なんでですか! 嫌ですよ!」


 なんだか今日の茜さんはいつにもまして無茶苦茶だなぁ……。

 てか、大物を買うって何を買う気なんだろ?

 その後の稽古も茜さんはなぜか身が入っておらず、全く練習にならなかった。


「ねぇ、平斗」


「なんですか?」


「アンタ……女の子の知り合いって何人居るの?」


「はい?」


 帰り際、茜さんは俺にそう訪ねてきた。

 女の子の知り合いと言われても、それはどのラインの知り合いを指すのだろうか。

 まぁ、一般的な知り合いなら多い気もするが……。

 えっと……城崎さん、悟の彼女の香奈、元同級生の村谷、あとは……あぁ、あのアホか。

 後は道場の女性陣も入れると、15人居ないくらいだろうか?


「まぁ、15人前後じゃないですか? 道場の女性陣も合わせると」


「け、結構居るのね……」


「だって、道場だけで10人いますからね」


「そ、そっか……や、やっぱりアンタも彼女欲しいとか思うわけ?」


「いや、特には無いですね。今は色々忙しいですし」


「そ、そう……じゃ、じゃぁ私帰るから」


「そうですか、勉強頑張ってくださいね」


「あんたに言われなくても頑張るわよ、私は出遅れてるんだから」


「確かに……人の十倍は勉強しないと大学なんて無理ですからね」


「本当のことだけど、アンタに言われるとムカつくわ、一発殴っていい?」


「いやなんですかその理由!」





 映画当日、俺は待ち合わせの場所で城崎さんを待っていた。

 なんだかんだで城崎さんと出かけるのも二回目。

 5月の連休明けに知り合って、今では一緒に映画に行くまで仲良くなるとは思わなかった。


「お、おはようございます!」


「あぁ、おはよう。ピッタリ時間通りだね」


「す、すいません、島並さんを待たせてしまって……」


「いやいや、俺が早く来ただけだよ。じゃぁ行こうか」


「は、はい」


 急いで来た城崎さん。

 この前は結構余裕な様子で来ていたのに、何かあったのだろうか?


「でも、一緒に行く相手が俺なんかで良かったの? 学校の友達とかの方が良かったんじゃない?」


「いえ、島並さんにはいつもお世話になってますし、それに……」


「それに?」


「………負けたくないので」


「え?」


「あ、いえ何でも無いです! さぁ! 早く行きましょう!!」


「お、おう?」


 なんだか今日の城崎さんはテンションが高いなぁ……よほど映画が楽しみなようだ。

 映画館に行くと休日という事もあって人は多い。

 俺たちは無人のチケット販売機で入場チケットを購入し、入場時間になるまで映画館内で時間を潰していた。

 すると、グッズ売り場で何やら見慣れた男女二人組を発見した。


「ん? あれってもしかして……」


「どうかしましたか?」


「いや、あの背中に見覚えが……」


 やはりそうだ。

 俺はその男女の正体に革新を持ち、グッズ売り場の方に向かい、その男女二人に声を掛けた。

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