第146話
✱
やってしまった、私はそんな事を考えながら先輩の家の階段を降りていた。
照れ隠しとはいえ、先輩にあんな事を言ってしまうなんて………何やってるんだろう私。
折角先輩との距離を縮めようと思って勇気を出して家に来たのに、これじゃあ私と先輩の距離はどんどん離れてしまう。
「はぁ………」
出てくるのはため息ばかりだ。
強力なライバルも居るし……このままじゃ、私は完全に嫌な後輩のままだ。
「あ、あの!!」
私が靴を履こうとしていると、城崎さんが急いで階段を駆け下り私の元にやってきた。
「ご、ごめんなさい! 私が変な話をしたせいで……」
「いや、貴方のせいじゃないわよ、私が勝手に言ったことだから」
「………あ、あの! あの言葉、本心なんかじゃないですよね!?」
「え?」
私は彼女にそう言われ顔が熱くなるのを感じた。
やはり同じ人を好きだからだろうか、彼女にはなんとなく私の気持ちがわかってしまうようだ。
「ほ、本当の事を教えて下さい! でないと……貴方をちゃんとライバルだって認められません」
「………」
一体この子は何を言ってるんだろう。
お人好しと言うかなんと言うか……そのライバルが勝手に自滅してるんだから、放っておけばいいのに……。
「……好きよ……城崎さんよりも先輩の事が」
「わ、私だって先輩の事が大好きです!」
それは知ってる。
だってこの子、私と話をしている時と先輩と話をしている時の目が全然違うんだもん。
「私……貴方には負けません。でも……貴方とはフェアな状態で戦いたいんです!」
「………なんでよ……私が勝手に自滅しただけよ? 貴方には何の責任も無いわ」
「そ、そうだけど……同じ人を好きになったんです……きっと私達気が合うと思うから……ちゃんと戦いたいんです」
可愛くて優しくて、その上お人好し。
駄目だなぁ……なんかこの子に私が勝てる気がしない。
でも……なんかそれは嫌だなぁ……。
先輩がこの子と手を繋いで歩いたり、デートしたり、キスしたりするのは……想像もしたくない。
先輩の隣に居るのは私が良いな。
「城崎さん……私、絶対に負けないから」
なんだか城崎さんの言葉を聞いて、私は明確なライバルを認識し、自分の中で何かが燃えるのを感じた。
「わ、私も負けません! 先に先輩の部屋に入られて、私は崎をこされていますから!」
「あ、そういえばそうね」
良かった、一つだけこの子に勝てる物があって。
いや、でもまだまだ負けてるところの方が多いけど……。
「はぁ……貴方もお人好しね……自滅したライバルにそんな事をいうなんて……」
「あ、あれは私が悪いですから……それより、どうやって先輩の誤解を解きましょう……」
「敬語」
「え?」
「敬語はやめてよ、同い年でしょ? 私のことは蓮花で良いわよ」
「じゃ、じゃぁ私も呼び捨てで大丈夫で……あ、大丈夫!」
あぁ……この子いちいち可愛い……。
でも、負けないって決めたでしょ私!
私だってそんなに顔は悪くないはずよ!
「そ、それじゃあ私、島並さんにさっきの話は誤解だって説明してきます」
「大丈夫よ、私に良い考えがあるから」
この作戦を実行したら、きっと先輩は怒る。
でも確実にさっきのあの言葉が誤解だったことに気がついてくれるだろう。
まぁ、確実に怒られるけど誤解を解くためにはしかたない。
「瑠華ちゃん」
「な、何?」
「私負けないからね」
「……うん」
私の言葉に「はい」と返事をした瑠華ちゃんの目は真っすぐで真剣だった。
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