第147話
✱
「それじゃあ、私はこれで……」
「先輩、私も帰りますね」
「おう……」
現在は夕方の5時、結局あの後も初白は帰らずそのまま家に居続けた。
城崎さんとの勉強を邪魔はしなかったが、勉強が終わった後が大変だった。
初白が俺の部屋で城崎さんと女子トークを開始、俺が早く帰ってくれと思いつつタブレットで雑誌を読んでいると、初白が俺に絡んで来た。
何が『どうせ明日も明後日も暇ですよね?』だ、俺には俺でやることがあるんだっての!
「はぁ……とにかく疲れた……」
とは言っても一時間で稽古が始まる。
あんまり休む事も出来ないが、少し横になって体力を回復させよう。
あのアホの相手を一日して既にクタクタだ。
「ん?」
ベッドに寝転んだ俺は自分のベッドに違和感を感じた。
いつものベッドの匂いではなく、なんだかいつもよりも良い香りがするからだ。
「……あのアホも一応女子ってことか」
別に匂いフェチとかではないが、ここまで変わると嫌でも気になってしまう。
てか、あのアホは男のベッドで良くくつろげるな……。
「まぁ良いや……少し寝よう」
俺はクタクタだった体をベッドに預け眠りにつこうとする。
しかし、その瞬間家のインターホンが鳴る音が聞こえた。
「いや……流石に俺の客では無いはず」
そう自分に言い聞かせていた俺だったが、一階から母さんの声が聞こえてくる。
「平斗ぉ! 悟君と大島くんよぉ!」
今度はあいつらかよ……。
俺は仕方なくベッドから起き上がり、クローゼットから道着を取り出して一階に降りていく。
「お前らはえーよ」
「こんにちは兄貴! 今日もよろしくお願いします!」
「島並さんお願いします!!」
面倒だなぁ……まぁでも、悪くはわねぇか……。
こいつらもやる気あるしな。
「さっさと道場行くぞ」
「「はい!!」」
少し前なら、こんなに家に知り合いが来ることはなかった。
夏休みなんて、高弥くらいとしか遊ばなかったのが今じゃこれだ。
正直面倒だし、相手をするのが疲れる時もある。
まぁでも……。
「悪くはねぇな……」
「兄貴? 何か言いました?」
「何でもねぇよ、ほらさっさとかかってこい」
道着に着替えた俺は道場で大島と悟の前に立ってそう言う。
「はい!」
「お願いします!」
俺に向かってくる大島と悟。
二人とも基礎体力をつけ、今では俺に喧嘩をふっかけてきた時よりも確実に強くなっていた。
まぁでも、この道場ではまだまだ弱い方だ。
ちなみに言っておくと、今現在の状況ではコイツラ二人よりも城崎さんの方が技術的に強いだろう。
「はぁ……はぁ……」
「どうした? そんなんじゃいつまで立っても強くなれねーぞ」
「わ、わかってます!」
口ではそんな事を言うが、コイツらは確実に強くなっている。
二人とも理由は違うが、強くなりたい理由がある。
そういう奴は強くなると前に竹内さんが言っていたが、確かに俺もそう思う。
俺もそうだったから……。
「フッ……じゃぁさっさと立てよ」
「はい!」
「こ、今度こそ!!」
これは、俺だけ疲れたなんて言えないな……。
こいつらもうクタクタのくせに……まっすぐな目で俺を見てきやがる。
全く……なんでこんな面倒な事を俺はしてるんだろうか……。
純粋に俺をすごいと尊敬していると言ってくれるこいつらの力になってやりたかったのか……それとも、こいつらがどんどん強くなるのが見てみたいのか……。
いや、きっと両方なんだろうな。
良くも悪くも、こいつらと出会って俺は変わった。
尊敬されるなんて始めてで、人を育てるなんて始めてだから、俺自身もきっと楽しいのだと思う。
「うっ!」
「防御が遅い!」
「おらっ!!」
「腕が開きすぎだ!!」
「あだっ!!」
「お前ら、まだまだだな」
あぁ、本当に色々あったな……この数カ月。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます