第142話

 なんで貴重な夏休みを俺はこのアホと過ごしてるんだ?

 というか、こいつは俺の家に何をしに来たんだよ……。

 初白は今度は俺のベッドに寝転んで、俺の部屋の漫画を読み始めた。

 他人の家だと言うのに自分の部屋のような感覚でくつろぎやがる……。


「あ、先輩。これの次の巻取ってください」


「それくらい自分で取れ、てかそろそろ帰れよ」


「えぇ〜まだ来たばかりじゃ無いですかぁ〜」


「きたばっかりってもう昼だろうが」


「あ、お腹減りました? じゃぁなんか食べに行きます?」


「昼はもう母さんが用意してるよ、いらないって言ったのにお前の分まで用意されてるし……」


「え! ごちそうになって良いんですか!?」


「てか食ってけ、母さんに悪いからな」


「わーい、なんかすいませんねぇ〜色々良くしてもらって〜」


 別に俺が良くしているわけでも無いのだがな……。

 母さんも初白に気を使って、なんか張り切って昼飯作ってたし。

 まぁ、俺が高弥以外の友達連れて来るのも珍しいからな、もしかしたら嬉しかったのかもしれない。

 一階に降りていくと、母さんがニコニコしながら初白に挨拶した。


「こんにちわ初白さん、平斗の母です」


「え!? お姉さんじゃなくて? お母さん若すぎませんか?」


「あら〜嬉しい事を言ってくれるわねぇ〜」


「いやいや、本当に若いですよぉ〜」


 なんだか母さん嬉しそうだな……。

 まぁ、母さんが若く見える気持ちは分かる。

 俺から見ても母さんは若いと思うし、良く俺の姉と間違えられる。

 初白も外面だけは良いからな、母さんともすっかり仲良くなりやがった。


「ごめんなさいね、あんまり美味しくないかもしれないけど、冷やし中華作ったから食べて行って」


「ありがとうございます! すいません突然お邪魔してご飯まで……」


「本当だよ」


 全く、母さんに要らない手間をかけさせやがって。

 不味いなんて言ったら許さん。


「ん! 美味しい! すごく美味しいです!」


「あらそう〜ありがとう〜良かったわ〜」


 流石に不味いとは言わないか。

 まぁ、不味い訳も無いんだがな、母さんの料理に関しては。


「先輩のお母さん美人で料理も出来るなんて、羨ましいですね」


「だろ?」


「うふふ、平斗もありがとね。それにしても知らなかったわ〜平斗にこんな可愛い後輩の知り合いが居たなんて」


「あぁ母さん、可愛いは余計だよ。うざいの間違いだ」


「先輩、私怒りますよ?」


「お前が怒ってもたかがしれてんだよ」


「あぁ! 言いましたね! 私、本当に怒っちゃうんですからね!」


「勝手に怒ってろ、連絡もしないで家に来やがって」


「だって、どうせ先輩家に引き込も合ってそうだったし」


「良いだろ別に」


「でも、たまには家から出ないと体がなまっちゃいますよ!!」


「うちは道場だぞ? 毎日稽古で体を動かしてるから良いんだよ!」


 俺と初白がそんな言い争いをしていると、今度は母さんが困った顔で俺に言ってきた。


「でも平斗、貴重な夏休みだし、偶にはどこか遊びに言ったら? 勉強も稽古も大切だけど、お母さんはもっと平斗に人生を楽しんで欲しいわ」


「母さんまで……そう言われても行く用事もないし……」


「あ! じゃあ海行きましょうよ! 海!」


「はぁ? お前と?」


「当たり前じゃないですか」


「嫌だよ、お前と行くと絶対に面倒だもん」


「むっ! なんでですか! 別に迷惑かけませんよ!」


「いや、お前と一緒だと色々面倒だろ……」


「何が面倒なんですか!! こんな可愛い後輩と一緒に海に行けるのに!」


「それだよ」


「え?」


 つまり俺が言いたいのはこういうことだ。

 初白と海に行く。

 初白がナンパされる。

 初白を俺が助ける。

 初白が一人になる。

 ナンパされる。

 また俺が助ける。

 このサイクルが面倒なのだ。

 だから俺は初白とは海に行きたく無いのだ。


「わかったか?」


「………」


 俺が説明してやると、初白は先程までうるさかった口を閉じ、顔を赤くさせて俯いていた。

 どうしたのだろうか?

 もしかしてこの部屋暑かったか?

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