第141話

 このアホは学校でも家でもうるさいな。


「ん? 先輩ってタブレット持ってるんですね」


「あぁ、前に父さんから貰ったんだ、調べものをしたりするのに便利だからって」


「へぇ~パスワードなんですか?」


「おい、何ナチュラルに人のタブレットを開こうとしてんだよ」


「大丈夫ですよ、ブックマークのとこは見ませんから」


「そう言う意味じゃねぇんだよ」


「まぁまぁ、良いから早く教えて下さいよ」


「たく……5543だよ」


「意外とすんなり教えてくれるんですね」


「教えないとお前はうるせぇからな」


 それに別に見られて恥ずかしいものは何も入ってないし。

 

「あ、先輩もしかして何か動画見ようとしてました?」


「まぁな、見たい映画があったからそれを見ようとしてたんだ」


「じゃぁ一緒に見ましょう!」


「え? まぁ良いけど、お前は良いのか?」


「はい、どうせこのまま先輩と話てても暇なんで!」


「そうなんだろうけど、なんかむかつくな……」


 俺は仕方なく、タブレットスタンドに置き、初白の隣に座り映画の再生の準備を始める。

 

「あ、隣……来るんですね」


「そうしないと二人で見れないだろ? 我慢しろ」


 タブレットといえ、テレビよりも画面は小さい。

 二人で見る時はどうしても至近距離になってしまう。


「それじゃあ再生するぞ」


「あ……は、はい」


 俺が見たかった映画は猟奇的な連続殺人事件を題材にしたサスペンス映画だ。

 有名な俳優が出ており、放映中は結構話題になっていた作品だ。

 結構エグイシーンもあるのでこの映画はR指定が掛かっており、15歳以下は見れない作品になっていた。

 当時俺は中学生で映画を見ることが出来なかったので、高校生になった今改めて見ようと思ったのだ。


「………」


「………」


 物語はクライマックスに差し掛かり、ついに主人公が犯人を追い詰めていた。

 まさか犯人がずっと主人公を支えていたヒロインだったなんて……確かに話題になるわけだ。


『まさか……君が犯人だったなんて……どうしてあんな事を!!』


『貴方なんかにわからないわよ! 私の気持ちなんて何も知らないくせに!!』


『そ、そんなことは……』


 あぁ、この男鈍感だったもんなぁ……確かに終盤辺りからヒロインの言動とか行動が少しおかしかったけど、この主人公は一切気が付かなかったもんなぁ……。


「こんな鈍感な男居るのねぇ……」


「しっ! 先輩少し静かにしててください!」


「あ、はい」


 なんで俺よりも初白が見入ってんだよ。

 まぁ良いか、映画見てる間はこいつ大人しいし。

 

『さようなら……』


『………なぜ……なんだ』


 まさかのラストは主人公がヒロインに殺されるとは……。

 愛しているが故に主人公の周りに居る人間全てを殺し、最後は主人公と自分も死ぬなんて……人は恋愛感情でここまで行動できるものなのだろうか?


「いやぁ~面白かったですね、なんか衝撃のラストって感じで」


「あぁ、普通に面白かったな」


「あのヒロインは主人公の男の人を愛しすぎてあぁなっちゃったんですよね? なんかすごいですね、人を好きになる力って」


「確かにな……好きな人の為なら何でもできるか……その気持ちは俺もわかるな」


 映画の犯罪者の気持ちではあるが、何となくその気持ちは理解出来る。

 このヒロインはその感情が歪んでしまい、あんな猟奇的殺人を引き起こしたのかもしれないが、人を愛するという気持ちには間違いなんてものは無いのかもしれない。


「いやぁ~やっぱりタブレットって良いですね、私もバイトして買おうかな?」


「いい機会だ、お前はバイトをして少しは先輩に対する礼儀も学んで来い」


「もう何を言ってるんですか先輩、こんな舐めた口を聞く先輩なんて島並先輩以外には居ませんよぉ~」


「なるほど、それは俺を舐めてるってことだな」

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