第135話
「はぁ……断るのが大変だった」
あれから数分、ようやく元のバイト代の倍額を貰うという事でご主人には納得してもらった。
てか、なんで雇われてる俺が値下げの交渉してんだ?
とりあえずストーカーの脅威はひとまず去った事だし、帰るか……バイト代は手に入れたし、これで三人との買い物も何とかなるだろうな。
「お疲れ様でしたボディーガードさん」
「うぉっ!! ってまた貴方ですか山之内さん」
俺が廊下を歩いていると、山之内さんがまた気配を消して俺の背後から声を掛けてきた。
てか、この人さっきの騒ぎの中に居なかったけど、まさか専属メイドなのにあの騒ぎでも寝てやがったのか?
「先ほどはお嬢様をお救い下さりありがとうございました」
「え? あぁ、まぁ別に……仕事ですし」
なんだかこの人に素直にお礼を言われるのはなんだかむず痒いな……。
「ただのお嬢様狙いの変態ではなかったんですね」
「あんた俺の事そんな風に思ってたのか……」
やっぱりこの人はこういう人だ……。
「まぁですが、お嬢様を救っていただいたのに変わりはありません。本当にありがとうございました」
「まだ黒幕が捕まっていない以上、あのお嬢様は危険でしょうけど……ご主人も正式にボディーガードを雇うと言っていましたし、まぁ大丈夫だと思いますが……」
「貴方は今日でお役御免なのですか?」
「まぁ、そうですね、臨時で雇われただけですし」
「………そうですか、残念です」
「え?」
「なんでもありません、それでは本日はお疲れさまでした」
「あぁ、どうも……」
山之内さんはそう言って俺の前から立ち去って行った。
なんだったのだろうか?
何か言いたげな様子だったけど……。
*
私は山之内楓(ヤマノウチ カエデ)この高柳家でお嬢様の専属メイドをしている。
「よろしいのですか? 彼、行ってしまいましたよ?」
「………」
私が部屋に入ると、私がお仕えしている光音お嬢様が布団に包まっていた。
先ほどの事件がよほど怖かったようで、ずっとこのままだ。
「お礼……言いたかったんじゃないですか?」
「………言いたかった」
「それなら、なんで言わないのですか?」
「……なんか……顔合わせずらい」
「惚れました?」
「違うっ!」
私がそう言うと、光音お嬢様は布団を剥いでがばっと起き上がり、私の言葉を否定してくる。
まぁ、そう言うでしょうね……。
でも顔を真っ赤にして言われても、説得力も何もあったもんじゃありません。
しかし、お嬢様も淑女。
まだただ彼が気になる程度なのかもしれませんが……私的にこの展開は熱い!!
是非ともお嬢様と彼をくっつけて、身分差恋愛というものを生で見たい!!
しかし、その為にはこの奥手なお嬢様を何とかしなくては……。
「お嬢様、それでは日を改めてお礼に伺うというのはいかがでしょうか?」
「………うん」
「それでは彼の情報を旦那様に聞いてまいります、お嬢様はお礼に持っていく品物でも考えていて下さい」
私がそう言ってお嬢様の元を立ち去ろうとすると、お嬢様は私の服の裾を掴んで私の行動を止める。
「何か?」
「……お、男の子に何を上げれば良いか……教えて」
「あら珍しい……お嬢様はいつもネットでなんでも調べるので、私に質問なんてしたことなかったですのに」
「……ネットの知識だけじゃ不十分」
なるほど、適当なお土産で済ませられない相手だという事は理解しているみたいね。
というか、こんなお嬢様を見るのは初めてね、いつもは表情を一切変えない氷姫(こおりひめ)なんて呼ばれてるのに、彼の話になると普通の女の子ね。
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