第134話

「バカ! こっち来るな!!」


 俺が叫んだが遅かった、ストーカーはお嬢様の方に走って行き、お嬢様を人質に取った。

 ストーカーはナイフを取り出し、それをお嬢様に突きつける。


「おい! 大人しくしろ! そうしねぇとこの女がどうなっても知らねぇぞ!!」


「な! は、離して!!」


「くそっ……」


 どうする?

 恐らくだがあいつの目的はお嬢様の誘拐だ、お嬢様に何か危害を加える可能性はあったとしてもそこまでの事はしないだろう。

 金を貰っていると言っていたし、黒幕は他に居るのだろう。

 おそらくこのままお嬢様を人質に取って逃げるつもりだ。

 

「え? 何の騒ぎ?」


「お、お嬢様!!」


「きゃぁぁぁぁ!!」


 騒ぎに気が付き屋敷中の使用人が集まって来た。

 

「テメェら動くんじゃねぇぞ! さもねぇとこのお嬢様の顔に傷がつくからな!!」


「ひっ!」


 あの表情を一切変えなかったお嬢様が、今は恐怖怯えた表情をしている。

 目には薄っすらと涙を浮かべている。

 あぁ……俺、こういうの見るの本当にいやなんだよなぁ……。

 竹内さんならこういう時もうまく対処するんだろうけど。

 どうする?

 俺は今あのお嬢様のボディーガードだろ!!

 何の為にここに居る!!


「………頭で考えたってわからねえな……」


「はぁ? 何を言ってんだお前!」


 だから俺はあれこれ作戦を考えるのをやめた。

 考えるのはただ一つ、彼女を助け出すことだけだ。


「いくぞ!」


「来るんじゃねぇ!! 来たらこの女に……え……消えた?」


 俺はそう言った瞬間、素早く走り出し助走つけて壁を走り、ストーカーの側面から思いっきり拳をぶつける。


「ぬぅおらぁ!!」


「がはっ!!」


「お嬢様!!」


 俺は一瞬のスキをついてお嬢様を救い出す。


「てめぇ……舐めてんじゃねぇぞ! クソガキィ!!」


「ぐっ!!」


「あ………」


 ストーカーは俺に向かってナイフを振り回してきた。

 俺はとっさにナイフを素手で受け止め、手から血がこぼれる。


「いい加減にしろ!!」


「あがっ!」


 俺は再びストーカーに思いっきりの正拳突きを食らわせる。

 ストーカーはそのまま気絶し、廊下に倒れた。


「はぁ……はぁ……おい、大丈夫か?」


「え……あ……うん」


「そうか……怖かっただろ?」


「…………」


 お嬢様は俺が笑いながらそう言うと、首を横に振った。


「アホ、こういう時は素直に怖かったで良いんだよ」


「………」


 俺がそう言うと、お嬢様は無言で俺の服を掴み体を近づけてきた。

 それはきっと泣いている姿を誰にも見せたくなかったからなのだろう。


「おっ………だよな、怖かったよな」


 俺はそう言いながら、ケガをしたのと反対の手でをお嬢様の頭を撫でる。

 昔はこれが反対だったなぁ……。

 誰かに捕まって泣くとなんだか安心するんだよな。





「ありがとう! 君には感謝してもしきれない!!」


「いえ、俺はただやるべきことをしただけですし」


 騒ぎを聞きつけたこの家の主人が仕事から屋敷に戻ってきて俺にそう言った。

 俺は怪我をした右手を使用人の人に手当てしてもらい、事件のあらましを主人と一緒にやってきた警察に話ていた。


「なるほど……では犯人は雇われたと言っていたんだね?」


「はい、おそらく黒幕は他に居ると思います」


「そうか……黒幕の存在をご主人の友好関係から探ってみましょう」


「一体誰が……まぁ、名家の生まれだと人から恨まれることも多いが……」


 警察に事件の事を話すと、警察は直ぐに帰って行った。

 これで終わりだとは思えないと、警察は屋敷の警備を強化する事を主人に約束していった。


「ありがとう、本当にありがとう。これは今日の報酬だ」


「こ、こんな大金貰えませんよ!」


 そう言って主人が俺に渡してきたのは軽く札が100枚はあるのではないかという程の厚さの札束だった。


「いや、君が居なかったら娘は今頃どうなっていたか分からない! これは私やここに住んでいる使用人全員の気持ちなんだ、受け取ってほしい!:


「し、しかし……」


 こんな大金持って帰ったら、母さんへの説明が面倒だし、何よりここまでの大金は求めてない。

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