第128話

「道場の後輩には教えるのに?」


「あの子は元から頭が良いからな」


「なんですか私は悪いみたいな言い方して!!」


「おまえはみたいじゃなくて頭が悪いんだ」


 いや、初白も言い返すなよ。

 大好きな高弥と一緒に要られる機会が増えるんだから、大人しくしてろよ。


「でも、今回の成績は勉強を見ていた僕にも責任があるし、やっぱり今度は平斗にお願いするよ」


「いや、だから俺は道場とか色々忙しくて……」


「テスト前だけで良いだろ? 初白さんもその方が良いよね?」


「まぁ、先輩に教わるのは少し嫌ですけど」


「ならお前はずっと赤点取って留年しちまえ、俺は知らん」


「先輩の鬼!! こんなに可愛い後輩を見捨てるんですか?」


「可愛くないから見捨てる」


「なんでですか!!」


 まるでこの前の事がなかったかのようにいつも通りに接する初白。

 俺の考え過ぎだったのだろうか?

 食事を終え、俺たちは明日も学校ということで早めに解散した。


「初白、途中まで送っていく」


「え? なんですか急に?」


「不安だろ夜道を一人は、良いから行くぞ」


 俺はそう言って別れたあとすぐに初白を追った。

 本当は高弥に頼もうとしたのだが、なんでも用事があるとかで断られてしまった。

 薄暗くなった道を俺は初白と並んで歩く。


「なぁ……」


「なんですか先輩」


「高弥にはいつ告白するんだ?」


「え? あ……そ、それは……」


 色々あったが、こいつとこうして知り合ったのはそれが切っ掛けだった。

 もう既に初白と高弥は仲良くなっているし、俺的にはそろそろ告白しても大丈夫だと思っているのだが、初白はどう思っているのだろうか?


「あ、あの……えっと……一応告白しまして……」


「はぁ!? いつの間に!!」


 まさか既に告白したあとだったとは、だから俺と顔を合わせなかったとかか?

 いや、でも高弥とは普通に合ってたみたいだし、それなら普通顔を合わせづらいのは高弥か。

 今日の様子やこいつの感じからなんとなく察しはつくが、俺は初白に結果を聞くことにした。

 まぁ、色々協力してやったし、聞く権利くらいあるだろう。


「それでどうだった?」


「まぁ……あの……ダメでした……」


「そうか………」


 なんだか少し可愛そうな気もするな、ひどい目に会って、しかも好きな人からは振られて、何一つこいつに良いことが無いなんてな……。

 こういう時、俺はなんと言ったら良いのだろうか?

 何も考えずに聞いてしまったが、返答を準備していなかった俺は頭を悩ませた。


「あぁ、まぁ気にすんなよ……男なんて星の数ほど居るし」


「はい、気にしてませんよ?」


 えぇぇぇ、切り替え早すぎないか?

 こんなあっさり諦め切れるのか?

 あれだけ色々やってたのに?

 なんでこんな簡単に諦め切れるんだ女って……。

 まぁ、振られた奴にそんな簡単にあきらめて良いのかよとも言いづらいけど……俺的にはもっと頑張ってほしかったんだが……。


「ま、まぁ切り替えは大事だな」


「女の恋愛は上書き保存って言うじゃないですか、いちいち引きずってられません」


「そ、そうか……」


 たくましいなぁ……。


「あ、あのそこで先輩に相談なんですけど」


「なんだ?」


「あ、あの……今度残念会しませんか? 先輩にも色々協力してもらいましたし、何か奢ります」


「あぁ、まぁ良いけど……お前の奢りだとあとで何か有りそうで怖いな」


「な、何もありませんよ! 一応先輩には色々感謝してるんですから」


「それならまぁ良いけど……」


「じゃあ、今週の土曜日なんてどうですか? どうせその体じゃ、道場にも顔を出せないんでしょ?」


「どうせとか言うな、まぁそうだけど……」


「じゃあ、土曜日で決まりですね、また後でメッセージ送るのでよろしくです」


「あ、あぁわかった」


「それじゃあ、私の家あそこなんで送ってくれてありがとうございました」


「あぁ、じゃぁな」


 初白はそう言って自分の家に帰って行った。

 てか残念会ってなんだよ、一体二人で何をするんだよ、ただ虚しいだけだろ……。


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