第126話



あまり日数は経っていないはずなのに、なんだか初白と会うのが久しぶりな感じがした。

顔を見た瞬間、俺は何となく安心してしまった。

いつも通りの初白、きっとこいつは折角の高弥との二人きりのところを俺に邪魔されて機嫌が悪いだろう。


「よう、久しぶりだな」


「お、お久しぶりです......」


なんでこいつ敬語なんだ?

 やっぱりあの時のショックがまだ……。


「初白大丈夫か? 気分悪くないか?」


「な、なんで急にそんな優しいんですか……」


「だって、お前が俺に敬語を使うなんて、お前の気分が悪いとしか……」


「先輩の中で私はどういう後輩なんですか!」


「失礼でムカつく後輩」


「それ本人に言います?」


「まぁ、お前だし」


「どういう意味ですか」


「本当に大丈夫か? お前から失礼な言葉の一つも出ないなんてやっぱりおかしいぞ!」


「おかしいのは先輩ですよ、そろそろキレていいですか?」


 俺と初白がそんな話をしていると、隣に座っていた高弥が口を開いた。


「まぁまぁ、二人とも久しぶりにあったんだから。それに平斗は初白さんに言わなきゃいけないことあるだろ?」


 高弥の言うとおりだ。

 巻き込んだ以上、俺は初白に話さなければいけない。

 俺の過去の話を………。


「まず、初白……巻き込んで悪かった」


「え? いや、別に私はそんなに気にしてないんですけど……」


「俺が弓島にもっと注意していれば、お前はあんな目に会わずに済んだ……本当にすまない」


 俺は初白に頭を下げた。

 どんな理由だったにせよ、あの事件の切っ掛けは俺だ。

 あの時の初白の泣き顔を思い出すと、俺は罪悪感で押しつぶされそうになる。

 あと一歩遅かったらと考えると、自分の無鉄砲さに腹が立つ。


「そ、そんな急に改まって謝られても……先輩助けてくれたし……」


「あれは、俺が自分で自分のケツを拭いただけだ。お前に責任なんか何もない、それどころか俺はお前を巻き込んだ……」


「や、やめてくださいよ! いつもの先輩らしくもない! わ、私はこの通り元気ですから!!」


 そう言ってみせる初白。

 もしかしたら、事件のあった日から比べると本当に元気にはなっているのかもしれない。

 だが、初白が心に傷を負ったことに代わりはない。

 謝罪するのは切っ掛けを作った者として当然だ。


「だが、巻き込んだことに変わりはない、だからお前には話ておく、三年前のことを……」


 俺は初白に三年前の岡崎とのことを話した。

 初白は真剣な様子で黙って聞いていた。

 

「そんな訳で俺のあんな噂が流れてたんだ……」


「それで……」


 話し終えたあと、初白はなんだか納得した様子だった。

 

「あ、あの一つ良いですか?」


「なんだ?」


「あの……先輩は村谷さんのこと……まだ好きなんですか?」


 まぁ、この話を聞いたらそういう質問が来るのは当然だ。

 前回もそして今回も俺は村谷の為に戦った。

 前回の理由は好きだったからだとわかるが、三年経った今も村谷の為になんで戦ったのかと問われるのは当然だろう。


「……そうだな……今回のことで俺も改めて思ったけど……俺が彼女に抱いていた気持ちはそういう好きじゃなかったのかもしれない」


「え?」


「平斗、それはどういうことだい?」


 この回答には初白以外にも高弥も驚いていた。

 それもそうだろう、高弥はずっと俺が村谷を恋愛対象として好きだと思っていたのだ。

 突然こんなことを俺の口から聞けば、そう訪ねてくるのは当然だ。


「あぁ……要するに当時の俺は村谷も高弥も好きだったんだよ」


「え? 平斗、悪いんだけど僕はそういう趣味は……」


「そういうことじゃねぇよ!!」

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