第125話



 帰り道、俺は少し機嫌がよかった。

 理由は簡単だ、良いことがあったからだ。

 結局大島達とはどこにも行かなかった。

 また今度埋め合わせをしよう。

 俺はそんな事を考えながら家に向かって歩いていた。

 すると、ポケットに仕舞っていた俺のスマホが音を立てて震え始めた。


「電話? 誰だ?」


 電話は高弥からだった。

 丁度いい、村谷の事も話たいと思っていたところだ。

 俺はそう思い電話に直ぐ出た。


「もしもし?」


『あぁ、平斗? 今どこに居るんだい?』


「今? 家に帰る途中だけど、何かようか?」


『あぁ……実は初白さんと会ってさ、平斗会いたがってたでしょ? 時間あるなら今から来ないか? 駅前のファミレスなんだけど』


「初白が?」


 初白と高弥が一緒に居るのか……明日も一応初白に会いに行くつもりだったけど、今日みたいな事になっても困るしな。


「わかった、今から行く」


『わかったよ、じゃあ待ってるね』


 高弥はそう言った後電話を切った。

 俺は直ぐに来た道を戻り、駅前のファミレスに向かった。

 色々初白には聞かれるかもしれない。

 しかし、それは仕方ないだろう、あいつは何も知らずに巻き込まれたんだ。

 俺には説明する責任がある。


「あいつ……ちゃんと元気かな?」


 あいつの凹んだ顔なんて想像できないが、今回は事が事だけに心配だ。

 香奈はまだ悟という彼氏がいるから大丈夫だろうけど、初白にはそう言う相手が居ないからな……。





「平斗来るってよ」


「そ、そうですか……わかりました」


 僕は現在初白さんと一緒にファミレスに来ていた。

 ここ数日間、僕は初白さんとばかりいっしょに居た気がする。

 なぜ初白さんと一緒だったのか、それはこの前の彼女のとある告白にあった。

 初白さんは僕に今まで平斗に何を相談していたかをすべて聞き、今の彼女の思いを聞いた。

 そこで今度は僕が彼女のサポートをしよと彼女に提案したのだ。


「そんなに緊張しないで、いつも通りで居れば大丈夫だよ」


「そ、そうですかね……なんか島並先輩と会うと緊張しそうで怖くて」


「あはは、そんな深く考えずにいつも通りにしてればいいよ」


「で、でも……」


「あれ以来平斗と会ってないから気まずいのは分かるけど、やっぱりいつも通りの方が平斗も安心するからね」


「そ、それはそうでしょうけど……」


 彼女は自分の気持ちに気が付いてしまった。

 だから彼女自身も戸惑っているんだと思う。

 初白さんと村谷は良くも悪くも似ている。

 明るくて気さくで、平斗とも距離が近くて、仲が良くて……。


「さて……平斗は誰を選ぶのかな?」


 平斗はいつも僕に『モテるな』というが、僕からすれば平斗の方が女の子にモテると思う。

 誰に対しても優しく、なんだかんだ言っても人の世話を焼き、困っている人を見過ごせない。

 そんな彼がモテないわけがない。

 まぁ、噂のせいで平斗は今までモテなかったけど、今から恐らく違うだろう。

 あの配信のおかげで平斗の評判はうなぎ上りだ。

 女子からは一途に惚れた女子の為にどんなん事でもやる優しさがうけているようだ。

 男子からはヤクザや弓島なんかのクズを懲らしめた男らしさがうけているらしい。

 クラスのみんなからは、最近なんで僕が平斗と仲が良いのかが分かったと言われることが多いが、分かろうとしなかったのは君たちだろうと僕はそう言い返す。

 平斗は何も変わってなんかいない、昔から僕が尊敬している彼のままだ。


「初白さんは男性を見る目があると思うよ」


「そ、そうなんでしょうか?」


「あぁ、だって……僕の親友に惚れたんだから」


 もちろん彼女にも頑張ってほしい、しかし平斗の周りには仲の良い女子が多い。

 ライバルが多い初白さんの助けになればと、僕は彼女に協力することにした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る