第124話

 彼女は聞いたのだろうか?

 岡崎と自分の関係を……そしてあの日の真実を……。

 しかし、今更俺は彼女と何を話せばいい?

 別に彼女からの謝罪を求めているわけでもないし、彼女を責めるつもりもない。

 ただの望むことが出来るのであれば、俺は彼女と昔のような仲の良い友人に戻りたい。


「………」


「………」


 喫茶店に到着した俺達は飲み物を注文してからずっと黙っていた。

 俺もそして村谷もきっと何を話せばいいかわからないのだと思う。


「……元気だったか?」


「えぇ……元気よ」


「そうか……高校はどうだ?」


「楽しいわよ、成績はあんまりだけど」


「そうか……」


 会話が続かない。

 昔は簡単に会話のキャッチボールが出来たのに……。

 まぁ、仕方ないと言えば仕方ないのかもしれない。

 お互い三年間ほとんど口を利かなかったのだ。

 いきなり仲良くなんて話せるわけがない。


「岡崎さんから……色々聞いたわ」


「………そうか」


 やっぱりかと俺はそう思った。

 彼女がその話を聞いて岡崎をどう思っているかわからない。

 そして俺のことをどう思っているのかも……。


「……ずっと気になってたの……私の本当の両親の事を」


「……岡崎の話だと美人ではあったらしい」


 病院で聞いた話だ。

 容姿だけはとても美しかったと岡崎は言っていたが、岡崎は母親の事をかなり嫌悪していた。

 

「父親が違うけど……私と岡崎さんは兄妹なんだって知ったとき、正直実感がわかなかったわ」


「まぁ、そうだよな」


「そして……三年前のことを聞かせれて……もう私の頭の中はぐちゃぐちゃになっちゃった」


「………聞いたのか」


「えぇ……自分の中で考えをまとめようと思って、聞いたその日は一日中考えてたわ」


「………最初に言っておくよ村谷。お前がもし責任を感じているならそれは必要ない、俺が勝手に好きでやったことだし、当時のお前は状況を知らなかったんだ」


 俺がそう言うと彼女は俺の方を見て真面目な表情で話始める。


「でも、私は信じてあげられなかった……心を許していた貴方たちを……」


「それは仕方のないことだ、周りにも噂は流れていたし、そのせいで信憑性が高いと誤認させられていたんだ」


「でも私は!! 貴方を……私を守ってくれた貴方を……あんなに貶して罵って……」


 彼女はそう言いながら涙を流し始めた。

 喫茶店に人が居なくてよかったと俺はそう思いながら、涙を浮かべる彼女を見る。


「もう終わったことだ……」


「でも! 私は大事な友達を!! 信じることも……」


 村谷は涙を流しながら続けた。


「私……ばかだ……大事な人を信じられなくて……それで失って……」


「………」


「しかも島並は……今回も私の為に……」


「………あぁ……俺も馬鹿だよ」


 こいつの泣いた顔が俺は嫌いだ。

 そんな表情を見たくないから、俺は泥を被った。

 なのに……俺が彼女にこんな顔をさせるなんて………。


「村谷……」


 俺は涙を流す村谷に笑いながらこういった。


「俺はお前の笑った顔が好きなんだ、だからお前にそんな顔してほしくなくて、岡崎とも弓島とも戦ったんだ」


「……うん」


「だから、あんまり俺の前で泣かないでくれよ、俺が惚れたのはお前の馬鹿みたいに楽しそうな笑顔なんだから」


 俺がそう言うと彼女は涙を拭いて、俺に笑って見せた。

 そうだ、俺が見たかったのは彼女のこの顔なんだ。

 明るくて見るだけでこっちまで元気になりそうな、彼女の笑顔。

 三年ぶりに見た彼女の笑顔はまるで暗闇に居た俺を照らしてくれる太陽のような笑顔だった。


「村谷……俺達、また戻れるか? あの頃の仲の良かった三人に……」


「それを聞くの私の方よ……こんな薄情な私を……まだ友達なんて呼んでくれる?」


「……あぁ、大事な俺の親友だよ」


 そう俺が言うと彼女は涙を流しながら俺に笑顔を見せてくれた。

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