第123話



 昼休み以降も俺は初白に会おうと、休み時間に入る度に一年の教室に向かった。

 しかし、初白と会うことは出来ず、ついに放課後になってしまった。


「大島、初白は?」


「え? 廊下で会わなかったっすか? もう帰りましたけど?」


「マジかよ……」


「あの……何かあったんすか? 俺も初白さんに兄貴が探してるって言ったんすけど、今は会いたくないって……」


 まさか、あいつの中であの出来事の何かがトラウマになってしまったのか?

 そのせいで俺に会いたくないのだろうか?

 しかし、なぜ俺に会いたくないんだ?

 結局その日も初白には会うことが出来なかった。

 メッセージを送ったりもしているのだが、返信は無い。

 一体どうしたというのだろうか?


「高弥もなんか先に帰っちまったし、今日は一人で帰るか」


「あ、兄貴! じゃあ俺と一緒にどっか遊びに行きません? どうせ怪我で道場にも行けないですし」


「珍しいなお前が誘って来るなんて」


「いや、誘いたかったんすけど兄貴が道場だとか勉強だとかで忙しそうでさせなかったんす」


「まぁ、そうだな……たまには良いか」


「じゃあ、どこ行きます?」


「なになに? 何の話?」


「島並さん、こいつと放課後どっか行くんすか?」


 俺と大島が話をしていると、悟と香奈が話に混ざって来た。


「げっバカップル……」


「あぁ? そうだがなんか文句あるのか? 彼女無し」


「うるせぇんだよ彼女持ちは来るんじゃねぇ!」


「んだとぉ!!」


「おい、お前ら馬鹿な事で喧嘩すんな」


 いつも通り喧嘩を始める大島と悟を俺はそう言ってなだめる。

 香奈も最早慣れた様子で二人の様子を見て苦笑いしていた。


「島並先輩と大島君放課後遊びに行くの?」


「あぁ、たまにはと思ってな、お前らもどうだ?」


「行きます! 行くよね悟?」


「是非!」


 まぁ、男二人って言うのも寂しいからな、四人なら丁度いいだろう。

 

「さて、じゃあどこ行くよ? 体動かす系は禁止な、お前ら二人まだ完治してねぇんだから」


「はいはーい! じゃあゲームセンターとかどうですか?」


「ゲーセンか……俺は良いけど、お前らどうだ?」


「おいコラ悟、お前調子に乗ってんじゃねぇぞ」


「おまえこそ何兄貴に媚び売ってんだ?」


「別に売ってねぇーよバ~カ」


「あぁん? てめぇやるか!!」


「いい加減にしろよ馬鹿共」


 俺は馬鹿二人と香奈と共にゲームセンターに向かい始めた。

 そして、昇降口を出た瞬間だった、俺は思いもかけない人物と遭遇した。


「……久しぶり」


「む、村谷……」


 そこに居たのは、かつての俺の友人であり、俺が好きだった女子だった。

 俺がそう言った瞬間、香奈は何かを悟ったようで大島と悟を連れて先に行った。


「し、島並先輩! わ、私たちは先に行くので終わったら合流しましょう!」


「え? なんでだよ香奈」


「兄貴も一緒に……」


「バカ! あの人が村谷さんでしょ! 気が付きなさいよ!」


「「誰だっけ?」」


「あんたら……島並先輩を兄貴って呼ぶなら、ちゃんと話は聞いてなさいよ」


 三人は話をしながら俺から離れていった。

 残された俺は目の前に立つ村谷から視線を逸らす。


「今……時間ある?」


「……あるけど、何か用事か?」


「うん……色々話したいことがあるから」


「……そうか……俺も色々話たいことがある」


 俺は村谷にそう言い、再び村谷の顔を見た。

 久しぶりにちゃんと村谷の顔を見た気がする。

 あの日からもう三年……村谷は少し大人っぽくなっていた。


「喫茶店行こ……私静かなとこ知ってるから」


「あぁ、わかった」


 俺はそう言う村谷の後ろについて歩き始めた。

 こうして村谷と一緒に歩くのは三年ぶりだ。

 もしここに高弥が居たら、あの頃のように三人で歩けたのに……。

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