第122話

 昼休み、俺は初白に会うのを諦め、食堂に向かった。


「腹減ったなぁ……」


 俺がそんな事を考えながらメニューを見ていると、少し離れたところになんだか見覚えのあるカップルが居た。


「な、なぁ香奈何食べる?」


「そうだなぁ……うどんにしようかな?」


「じゃあ、俺が奢るよ!」


「いや、でも悪いし……」


「大丈夫大丈夫! 今月は余裕があるし!」


 そんな会話をしているのは、悟と香奈だった。

 何やら悟が香奈に必死に媚びを売っているように見える。

 きっとこの前の事で申し訳なさを感じているのだろう。


「ん? あ! 島並先輩!」


「え? 島並さん!」


「よ、お前ら元気そうで安心したよ」


 俺は二人に近づきそう言う。


「島並さん……俺はまた貴方に……」


「あぁ、やめろやめろ。そんな顔すんな悟、みんな無事だったんだ、それで良いだろ?」


 悟は申し訳なさそうな表情で俺の顔を見ながらそう言って来る。

 こいつが謝る必要なんてない。

 俺がことを大きくしたことが問題だったんだ。

 俺がもっと早くに動いていれば、香奈もこんな目には合わなかったはずだ。


「香奈も大丈夫か? トラウマとかになってないか?」


「怖かったですけど……でも、私には悟が居ますから」


 香奈は笑顔でそう言いながら、悟の腕をつかむ。

 全く、理想的なカップルだなこの二人は……。


「そっか……」


「あ、でも島並さんも素敵だと思いますよ! 私がフリーだったら完全に惚れてました!」


「か、香奈!?」


「おいおい、小心の彼氏の前でそれを言ってやるなよ」


「あ、よかったら一緒にご飯食べませんか?」


「え?」


 香奈の提案で俺は悟と香奈と昼食を一緒に取る事になった。


「島並さん、ケガもう大丈夫ですか?」


「お前の方こそ……大丈夫なのか?」


 俺はそう言いながら悟の体を見る。

 顔にはあざや切り傷、腕には包帯、俺よりもボロボロだったのは悟と大島だ。

 

「えぇ、俺は全然大丈夫であいてて……」


「あぁもう、無理するから」


「わ、悪い……」


「まだ完治とは言わないか……」


「えぇ、残念ながら道場に通うのは少し先になりそうです」


「そうか……ちゃんと体直してから来い、そしたらビシバシ鍛えてやるよ」


「はい!」


 俺がそう言うと、悟の表情はぱぁっと明るくなった。

 昼食を食べ終えると、俺は悟達に別れを告げ食堂を後にしようとする。


「島並さん! 少し良いですか?」


「ん? どうした悟」


 悟は一人で俺の元にやって来た。


「少し良いですか?」


 真剣な表情でそう言う悟、俺はそんな悟と一緒に人気のない一番奥の階段にやって来た。


「それでどうした?」


「……俺……彼女を……香奈を守れる男になりたいんです……」


「焦るな、今は怪我を直せ」


「でも!! 俺は二度も……香奈を危険な目に……」


 きっと悟は気にしているのだろう。

 彼女を守れなかった自分の弱さを……。

 だから彼女を守るために早く強くなりたいのだろう。

 短期間で彼女が二回も危ない目に合えば、そう考えるのは不思議ではない。

 不安そうな表情でそう言う悟に、俺は笑みを浮かべながら話す。


「……俺も好きな子の為に出来ることをしたつもりだった……けど、その子にはそれが伝わってなくてな……」


「なんですか……急に……」


「好きな子の為に強くなりたい気持ちは痛いほどわかる、でも焦るな! お前は俺が強くしてやる」


「島並さん……」


「俺はお前の兄貴なんだろ? 少しは兄貴の言葉を信じろよ」


 俺が笑みを浮かべながら悟にそう言うと、悟は先ほどまでの不安そうな表情からどこか安心したような表情で俺にこういった。


「よろしくお願いします!」


 兄貴分なんて俺のしょうに合わないってのに……。

 

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