第119話
「あぁ……道場の方は最近どう?」
「いつも通りですよ、でも竹内さんも最近は道場に来ていませんね」
「あの人が? 三度の飯より体を動かすのが好きな人なんだがな」
大学の方が忙しいのかな?
まぁ、たまにあの人は道場に一週間くらい来なかったりするしな、大学もテスト期間にでも入ったのかもしれない。
「城崎さんは最近はどう?」
「最近はようやく型を教えてもらえるようになってきたので、少し大変です。でも楽しいです」
「そっか、それは良かった」
型を教えているのは恐らく父さんだろう。
一つの型を教えるのにうちの道場では長い期間を掛ける。
しかも人によって最初の型はそれぞれ違う、それまでの基礎体力や個人の得意不得意に応じて何を教えるか親父が決めている。
「まぁ一つの型をマスターするのに大体半年の稽古がいるからね、最初はまず型の動きを覚えた方が良いよ」
「はい。あ、あの……島並さんが復帰したら私の指導って島並さんがしてくれるんですか?」
「あぁ、多分そうなるよ、父さんも忙しいからね」
「そうですか……」
そう言う城崎さんの顔はどこか安心しているような様子だった。
話をしているうちに注文した商品が届き、俺たちは夕食を食べ始める。
城崎さんの家は門限とかが厳しそうだが、大丈夫だろうか?
「城崎さん、時間は大丈夫?」
「はい、お母さんに連絡は入れてあるので」
「そっか、なら安心だ」
「はい、今日はお父さんも居ないので安心です」
あ、そっちなんだ……。
確かにあの父親は城崎さんを溺愛しているからな。
「またうちにご飯食べに来てください、お父さんの居ない日に」
「そ、そうだね……あはは……」
またあの父親と一緒に風呂に入るのは嫌だな。
まぁ心配になる気持ちもわかる。
城崎さんはかなりの美少女だしな。
食事を終え、俺たちはファミレスを後にした。
「あの……病院で診察を受けてましたけど、ケガは大丈夫なんですか?」
「あぁ、大丈夫だよ、あと何回か診察は必要って言われたけど」
「そうですか……あんまり無茶しないでくださいね……」
年下の女の子にまでこんな事を言われてしまうなんてな。
正直もっともな意見だと思う。
「そうだね……城崎さんの言う通りだよ」
「あの……あんまりこういうの聞くのは良くないと思うんですけど、なんでそんな怪我をしたんですか?」
「………」
俺は城崎さんにこの前の事を話すべきかどうか悩んだ。
この子は配信を見ていたわけじゃない、言ってしまえば何が起きたのかも分からない。
俺からこの子に説明する必要はない。
しかし、この子も俺の心配をしてくれたのは事実だし、心配を掛けてしまったのも事実だ。
「まぁ、強いて言うなら……昔好きだった子の為に頑張ってきたんだよ」
「え……」
俺がそう言うと彼女は俺の顔をボーっと見ていた。
まぁ、そう言われても意味が分からないよな……。
「まぁ、今度詳しく話すよ」
「む、昔好きだったって……い、今はどうなんですか?」
「え?」
まさかそっちに食いつくとは……まぁ女の子だし、恋バナの方が気になったのかもしれないが……。
「今はもう学校も違うし、連絡先も知らないからね……もう完全に疎遠だよ」
「そ、そうなんですか……」
まぁ、もしかしたら岡崎が村谷に何かを言って、村谷が俺に連絡をしてくるかもしれないけど……。
「あ、あの……島並先輩って好きな人って今は居ないんですか?」
「え?」
なんかどんどん俺の恋バナみたいになって来たな。
「いや、今は居ないよ、色々忙しいしね」
「そ、そうなんですか……よかった」
「何が?」
「え! あ、いや! なんでもないですよ!! あはは、それじゃあ私コッチなので! あだっ! いっつぅぅぅ……」
「あ、あの……大丈夫?」
城崎さんは慌てて俺にそう言い、電信柱に頭をぶつけてうずくまった。
なんだか今日は落ち着きがないな、どうしたんだろう?
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