第118話

「疲れた」


 学校を出た俺が自然と口から出たのは、その言葉だった。

 一日中今まで話したことのない奴らに声を掛けられ、その対応をしていた気がする。

 手のひらを返されたと考えるべきなのか、それとも本当に俺のことをわかってくれたのかは謎だが、まぁ面倒な誤解が解けたようで良かった。

 俺は初白達の様子を見るべく、放課後に教室に向かったのだが、生憎すでに帰ってしまっていたあとだった。


「あいつこんな帰るの早かったか?」


 俺はそんなことを考えながら、グランドを抜けて校門までやってきた。

 すると、校門前には何やら人だかりができていた。

 まさかと思い、人だからの中心に居る人物を見てみると、案の定城崎さんだった。

 困っている様子の城崎さん、俺はため息を吐いたあと彼女に声をかける。


「城崎さん」


「あ! 島並さん!!」


 俺が城崎さんに声をかけると、彼女は先程までの不安そうな表情から一変し、ニコニコしながら俺の方にやってきた。


「あの、怪我をしたって聞いたんですが、大丈夫ですか? すいません、お見舞いにも行けなくて……」


「あぁ、大丈夫だよ。心配掛けて悪かったね」


 俺たちが話始めると、集まっていた野次馬達は直ぐにいなくなった。

 また人が集まってきても困るので、俺は城崎さんと一緒に帰りながら話しを始めた。


「入院までしたって茜さんに聞いて、何かあったんですか?」


「あぁ、まぁ色々ね」


 恐らく彼女はあの配信のことを知らないのだろう。

 不安そうに俺を見つめるの瞳に俺は少し罪悪感を覚える。

 こんな子にまで心配を掛けさせてしまったのだと、俺は年上としての情けなさを感じていた。


「来週からは稽古に出るよ、まだ本調子じゃないから今週は無理だけど」


「そうですか……よかった」


「心配してくれてありがとう、俺に会いにここまで来てくれたの?」  


「はい、師範代から今日から登校だって聞いていたので」


 俺と城崎さんはそんな話をしながら、家の方に歩いて行く。

 しかし、今日の俺はまだ放課後に行くところがある。


「城崎さんごめん、ちょっと用事があるんだ」


「あ、そうなんですか……」


「うん、ちょっと病院にいかなきゃいけないから、俺はここで……じゃあ、また来週から道場で会おう」


「わかりました、それじゃぁ……また……」


「うん、じゃあね」


 俺はそう言って城崎さんと別れ、病院に向かった。

 病院に来た理由は診察だ。

 背中を刺されたため何回か定期的に診察が必要だと言われ、今日はその一回目だ。

 診察とは言ってもその後の傷の具合を見る程度なので、診察は五分ほどで終わった。

 正直待っている方が長いきがした。

 

「ん?」


 診察を終えて俺が外に出ると、そこにはなぜか先程別れたはずの城崎さんが立っていた。


「あれ? どうしたの?」


 俺がそう尋ねると城崎さんは顔をほんのり赤く染めながら、俺に言った。

 

「あの……もう少し話したくて……」


「え? あ、そうなの? それじゃあ……め、飯でも食ってく?」


 俺は城崎さんにそう言い、一緒に近くのファミレスに入った。

 なにか俺に話でもあるのだろうか?

 そんなことを考えながら、俺は目の前に座る城崎さんを見ていた。


「あ、あの……おかげさまでテストはすごく良い点数が取れました」


「おぉ、それは良かった。教えたかいがあったよ」


「はい、まさか学年一位が取れるなんて思わなかったです」


「それは凄いな……」 


 なんか、俺が教えなくても城崎さんなら取れたかもしれないな。

 しかし、こうして城崎さんと二人で飯を食うなんて初めてだな……別に意識しているわけではないが、緊張してしまうな。

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