第117話


 昼休み、授業を終え高弥は直ぐに教室を出て行ってしまった。

 一体何で呼び出されたのだろうか?

 そんな事を俺が考えている間に、またしてもあのうるさいのがやって来た。


「なぁ島並! 飯一緒に食わねぇ?」


「え? なんだよ急に」


「いや、正直俺はお前の事をとんでもない悪人だと思って今まで過ごしていた」


「なるほど、お前がとんでもなく失礼な奴だってことは分かった」


「だけど、そうじゃないと分かった今、俺は島並に興味がある!」


「そうか、じゃあ飯は他の奴と食ってくれ」


「まぁ待て待て! いや、流れてた噂が噂だったからよぉ! クラスの連中だってお前に興味があっても今まで全く接したことが無かったから、接し方に困ってるんだよ!」


「別に無理に接しようとしなくて良いだろ? 今まで通りでいい」


「いやいや、お前の配信の動画が結構学校中で広まってるんだぞ? 話を聞きたい奴が大勢いるんだ!」


「はぁ? なんでそんな広まってるんだよ?」


「俺も詳しくは良く分からねーけど……俺は一年から聞いて」


「一年?」


 まさか初白や香奈が?

 なんてことを考えたが、それ以上にあの動画の存在を学校に広めそうな奴の目星がついてしまった。


「はぁ……迷惑な話だ」


「なぁなぁ! 聞いたらお前の家て武術の道場なんだろ! すげーな! やっぱり毎日稽古とかして鍛えてんの?」


「小山はそんな話を俺にしながら、ナチュラルに前の席に座り、俺の目の前でコンビニで買ったのであろうパンを食べ始めた」


「おい、俺はお前と食べるなんて一言も……」


「まぁまぁ良いじゃねぇか、たまには」


「なんでお前がそれを言うんだよ……」


 結局俺は小山に半ば強引に説得され、小山と飯を食う事になってしまった。

 聞かれるのはあの配信の内容ばかり、色々と説明にも気を遣うし、本当に面倒くさい。

 しかもそんな事をしていたら、一人また一人と俺の周りには人が集まり始めた。

 そして全員が一番気になっている質問がこれだった。


「で! 村谷って誰だよ!!」


「別に誰だって良いだろ」


「彼女か? 彼女なのか!?」


「それとも片思い?」


「でも、こんな事されたら惚れちゃうわよねぇ~」


 うざい……別にほっておいて欲しい。

 なんだこいつら手のひら返しやがって……まぁ噂のせいなのは分かるが、急に慣れ慣れしすぎやしないか?


「まぁ、でも……一番はあれだ………今まで悪かったな」


「なんだよ急に謝って」


「いや……なんか噂信じてお前に関わらないようにしてたけど……お前結構面白い奴だったんだ」


「どこに面白い内容があったんだよ」


 そう言う小山にそう言うと、集まってきたクラスメイトも小山と同じような事を言ってきた。

 

「なんか、噂だけで判断しててさ……ごめんな」


「島並も色々大変だったんだよな? 悪かったな」


「私も関わったらいけないって思ってて……ごめんね」


 なんだろうか、この感じは……。

 ようやく誤解が解けて俺は内心嬉しかったりもした。

 だけど、なんだか気恥ずかしいような感じもして、俺はクラスメイトになんと言ったら良いか分からなかった。


「別にお前らが謝る必要なんてないだろ……悪いのはそう言う噂が流れるようなことをした俺だ」


「それでも俺は結構お前に悪いことをしたって思ってんだよ! 本当にごめんな」


「やめろ、もうわかったから。それに俺との接し方を変える必要なんてない。もともと俺は大勢で騒ぐようなタイプじゃないからな、普通に今まで通りで良いよ」


 俺がそう言うと小山は笑顔でわかったと言った。

 まさか、岡崎のせいで壊れた俺の日常が岡崎のおかげで元に戻るとはな……。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る