第113話

「複雑な関係? まぁ良いや、平斗の事助けてくれたんだろ? ありがとな」


「いや……俺は何もしてないよ」


 岡崎は茜さんの問いにそう答える。

 俺からしたら岡崎も頑張ったと思うのだが……それを俺から言うのはなんだか違う気がした。

 茜さんはそのあと直ぐに流石に二限目からは出なきゃいけないからと病室を後にしていった。

 真面目なんだか不真面目なんだか。


「お前、女の知り合い結構居るんだな」


「そりゃ居るだろ」


「まぁ、そうだけどよ。年上として一言言っておくが、彼女は一人だけにしておけよ。女は後で何するか分かんねーぞ」


「はぁ? 何言ってんだよ?」


「別に、じゃあ俺は少し寝るから」


「お、おう」


 岡崎はそう言ってカーテンを閉めた。





 時間を遡り、平斗が病院で岡崎の話を聞いて居る頃。

 島波流道場には黒塗りの高級車が一台止まっていた。

 道場の中には島並家の当主であり、島並道場の師範代でもある島並凱斗(しまなみ かいと)が居た。

 

「島並様、この度は我々の組の者がご子息に多大なご迷惑をお掛けしたことをお詫びに参りました」


「やめて下さいよ東郷(とうごう)さん。これは子供同士のいざこざの延長で起きた事です、それに聞けばあの若者は組に入って日も浅いと」


 大板組11代目組長東郷政信(とうごう まさのぶ)は島並凱斗、つまり平斗の父親に対して頭を下げる。

 凱斗は少し戸惑った様子で東郷にそう言うと、真面目な顔で話始める。


「しかし、あの薬については私も知りたい、医者も見た事が無い薬物だと言っていました」


「その件に関してはこちらで調べております、分かり次第島並様に情報を提供します」


「あの、島並様はやめませんか東郷さん、俺は師範ではなく師範代です」


「ですが、師範である御父上には我が組が壊滅寸前のところを救っていただいた大きな恩がございます。それを仇で返すような真似を……今回はこの老いぼれの首一つで何卒……」


「いやいやうちは極道じゃないですから! やめて下さいそう言うの!」


「ですがそれでは下の者に示しが付きません」


「そんな事をする前に貴方にはやるべきことがあるはずです」


 凱斗はそれまでの笑顔を消し、東郷に真面目な表情で話を続ける。


「あの薬を反社会的な組織が若い世代にバラまいているとすれば、これからもまた何か起きるやもしれません」


「はい、関西の西條組、東北の東楼会、あるいは別な組織が何か事を起こすために試験的にうちの若い者に薬を渡した可能性は非常に高い」


「私も前の仕事のつてを辿って情報を集めてみます」


「はい、あとこれは少ないですが見舞金です」


 そう言って東郷は懐から分厚い封筒を取り出し、凱斗の前の差し出す。


「いや、こんなにいただけませんよ……それに私は望むのはお金ではありません」


「それでは何を?」


「組織の統制です。また内部で何かが起きないよう、組員同士の結束を強くしてほしい。それが私の願いです」


「はい、わかっております」


「お願いします、大板組が何のための組織か今一度改めて考えて欲しい」


「はい」


 そう言う凱斗の目は東郷ではなく、どこか遠くを見ていた。

 そして東郷が帰った後、凱斗は自宅に戻り病院から帰って来た妻に会いに向かった。


「おかえり」


「あら、もうお話は良いんですか?」


「あぁ……平斗はどうだった?」


「背中を刺されてはいるけど、命には別状は無いって」


「そうか……流石は俺の息子だな」


「貴方……あの子、またあんな無茶を……」


「あぁ、帰ってきたらたっぷり絞ってやらないとな」


「……正義感が強くて、優しくて……無茶ばっかり……本当……あの二人にそっくりね……」


「あぁ……そうだね」


 そう言いながら、凱斗は妻を抱き寄せる。

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