第112話



「だる……」


 病院に運ばれた日の翌日、俺は病院にて検査を受け警察からの事情聴取を受け終え、ようやく病室に戻って来た。


「随分長かったな」


「まぁ、背中にナイフぶっ刺されてたからな」


「医者がビックリしてたぞ、あの状態で良く動けたって」


「まぁだろうな……俺は少し特殊なんだよ」


 ベッドに戻ると岡崎がタブレットを操作しながら俺にそう尋ねてきた。


「良いのか? 電子機器なんて持ち込んで」


「この病院は問題ないぞ、それにスマホが良いんだからタブレットも良いだろ」


「何を見てんだよ?」


「SMS、昨日の俺らの事が少し話題になってるぞ」


「マジかよ……写真とか載ってないよな?」


「まぁ、配信見てたやつがスクショ取ったりしてるけど、ほとんど俺たちはやられて地面に倒れてるし、極力俺らの顔は配信で写らないようにしてたから大丈夫だろ」


「本当かよ、住所とか特定されない?」


「お前の住所特定して誰が何をすんだよ。まぁ俺は困るけど、御曹司だし」


「自慢かコラ」


「まぁでも……親父にはまた迷惑を掛けちまったな……」


「……それは俺もだ、お前を巻き込んだわけだしな」


「お前はそんな事より、学校に行ったときの事を考えろよ」


「え? なんでだよ」


「少なくともお前の後輩達やお前の親友君からは体の事を色々聞かれるぞ。それにあの配信を見ていた生徒がお前の学校に居るかもしれない」


「……確かに面倒だな」


 あいつらただでさえうるさいのに……。


「てか、多分昨日あの事件に関わった奴らは全員学校休んでるだろ? もしかしたら今からなだれ込んでくるかもしれないぞ」


「いやいや、流石にそれは……」


 なんて話を俺がしていると、病室のドアが勢いよく開いた。


「平斗!! 大丈夫か!? 背中を刺されて入院したって聞いたぞ!!」


 全然関係ない茜さんが病室にやって来た。

 茜さんは俺を見つけるなり俺の病院服の襟を掴んでを俺を勢いよく揺らしながらそう尋ねる。


「あ、茜さん……お、落ち着いて……」


「お前の事だから絶対大丈夫だって思ってたけど! 何背中なんか刺されてるんだよ!!」


「あ、茜さん……ゆ、揺らさないで……き、気持ち悪くなってきた……」


「あ、わ、悪い……」


 うぅ……気持ち悪い。

 この人は加減というものを知らないのだろうか?

 でも、この人も俺を心配してきてくれたわけだし、あんまりそう言う野暮な事を言うのはやめよう。


「てか、茜さん学校は?」


「サボった」


「あんたねぇ……」


「お前が心配だったんだよ! お前のお袋さんもかなり心配してたぞ! 全く、お前はいつも無茶を……」


 泣きそうな顔で茜さんは俺を見てくる。

 男勝りで気の強い茜さんがこんな顔をするのを見たのは二回目だ。

 本当に俺は色々な人に心配をかけたようだ。

 少し反省しなくてはいけないな。


「すいません……」


「良いから寝てろ! あとこれはお見舞いだ!」


「ありがとうございます」


 そう言って受け取った袋の中にはプロテインバーなどプロテインの入った食品が大量に入っていた。

 

「あ、あの……なんでプロテインなんですか?」


「いや、筋肉付ければ傷の塞がりが早いかと思って」


「脳筋の考えですよそれ!」


 俺と茜さんがそんな話をしていると、隣のベッドで岡崎が声を上げて笑う。


「あははは! お前の知り合いはユニークなのが多いな」


「ユニークすぎるんだよ……」


「ん? お前誰だ?」


「あぁ、俺の……」


 茜さんにそう尋ねられ俺は何と紹介するか少し迷った後、岡崎の事を茜さんに紹介した。


「俺の先輩ですよ」


 そう俺が言った瞬間、岡崎は目を見開いて俺の顔を見ていた。


「ん? でもさっきため口じゃなかったか?」


「あぁ、良いんです、こいつは」


「おい」


「あ、私は平斗の家の道場の門下生で……今日はこいつのお見舞いに」


「あ、あぁそうなんだ、俺は岡崎、まぁこいつとは色々複雑な関係なんだ」

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