第109話

 不思議と背中の痛みなんて気にならなくなっていた。

 今はそれよりも目の前にいる弓島を殴り飛ばしたかった。

 だから俺は……本気を出すことにした。


「おらぁ!!」


「ぬぉ! な、なんだと!?」


 俺は弓島の足を押しのけ、その場に立ち上がる。

 態勢を崩した弓島はそのまま地面に尻もちをつく。

 俺はそんな弓島を見下ろしながら指をくいくいと動かし挑発する。

 

「かかって来いよ、お前がどんだけ小物か教えてやる」


「なんだとぉ……馬鹿にするんじゃねぇ!!」


 弓島は俺の挑発に乗り、またしても俺に襲い掛かってくる。

 俺はそんな弓島の足を引っかけ、弓島を転ばせる。


「ぐぉっ!」


「ワンパターンなんだよ、お前は」


「んだとぉ! ふざけるなぁ!!」


 弓島は直ぐに立ち上がりまたしても俺に向かってくる。

 俺は弓島の攻撃を避け、弓島の体に数発パンチをする。

 

「ぐっ……な、なんだお前……さっきとはまるで力が……」


「そりゃあ手加減してたからな……でもこうなっちまった以上、俺も本気を出してお前を止めるとかないだろ」


 俺は話しをしながら弓島から距離をとる。

 さっさとケリをつけよう。

 俺はそのまま休むことなく、弓島に向かって拳をぶつけていく。

 

「うがっ! あ……あが……」


「わかったか……お前は俺にすら勝てない、ただの小物だ」


「ま、まさか……俺は……最強に……」


「……もう二度と仕返しなんて考えるなよ……それと、村谷に手を出してみろ………その時はお前を殺す」


「……ばけ……もの……」


 弓島は膝から地面に倒れ、そのまま気絶した。

 俺の攻撃でやっと体に限界が来たらしい。

 俺はそのまま高弥のところに向かい、高弥の様子を見る。


「大丈夫か?」


「それは……こっちのセリフだよ……背中にナイフ刺さってるけど?」


「俺が丈夫なことはお前が一番良く知ってるだろ? うっ……」


 俺もそろそろ体力の限界だった。

 背中の痛みもまた感じるようになっており、もう立って歩くのもきつい。

 

「先輩! 何やってるんですか!」


「あぁ……悪いな初白……」


 ふらふらする俺を見て初白が手を貸してくれた。

 

「悪いな……こんなことに巻き込んで……」


「いえ……本当に大丈夫ですか? 多分もうすぐ警察と救急車が来ると思いますけど……」


「そうだなぁ……早く背中のナイフを抜いてもらわないと……出血多量で死ぬかもな」


「こんな時にそんな縁起でもないことを言わないでください!!」


「へいへい……俺は大丈夫だ、それよりも岡崎を頼む。あいつも結構殴られたからな」


「うるせぇよ」


 俺がそう言うと地面に倒れていた岡崎がため息を吐きながら俺にそう言った。


「おう、大丈夫か?」


「これが大丈夫に見えるかよ……まぁだが、おかげでいろいろな証拠はばっちり取れたけどな」


 岡崎はそう言いながら、スマホを俺に見せてくる。


「何やってたんだよ」


「べつに……ただお前の誤解……解いてやろうと思っただけだよ」


「んだよそれ……意味が分かんねーぞ」


「まぁ、明日になったらわかんだろ」


 岡崎がそう言うと、ちょうどサイレンの音が聞こえてきた。

 きっと警察が来たのだろう、俺は安心しその場に座り込んだ。


「はぁ……きっとこってり絞られるぞ」


「それは仕方ないだろ? でも、初白さん達が無事でよかったよ」


「そういえば大島と悟は?」


「二人は結構重傷でね……廃墟の中に寝かせてきたよ」


「そうか……あいつらもひどい目にあったもんな」


 俺がそんなことを言っていると、警察官数人が廃墟の中に入ってきた。

 さて、今からは別な意味で面倒くさい事情聴取とお説教が始まる。

 もしかしたら明日は学校を休むことになりそうだな……。

 俺はそんなことを考えながら、静かに目を閉じた。

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