第108話

「ふん!」


「ぐはっ!」


 高弥の突きが弓島の腹に入った。

 元々高弥は剣道をしていた経験があり、その腕かなりのものだ。

 今はとあることがきっかけで剣道から離れてしまっているが、その腕は衰えていない。

 しかし、今の弓島は薬によって筋肉が増強されている上に、怒りで行動が読めない。

 そんな相手と久しぶりに剣を取った高弥が勝てるかどうかは五分五分だった。


「ちっ! 動きが読めない」


「おい優男! そんな棒きっれで俺に勝てると思ってるのかぁ!!」


「なっ!」


「おらっ!!」


バキッ!

 その音とともに高弥が持っていた角材は弓島に折れられてしまった。


「っち!」


「へへ……まずはお前からだ!!」


「ぐはっ!」


「高弥!!」


 高弥は弓島に蹴り飛ばされ、廃墟の壁に背中を叩きつけられる。

 弓島の力は既に人間の力を遥かに超えていた。

 高弥はそのままぐったりし、立ち上がらない。


「くそっ!」


「先輩!」


 俺は初白の手を振りほどき、再び弓島と対峙する。


「いい加減にしろてめぇ……もうお前の負けだ」


「負け? 何を言ってるんだガキが! 岡崎も倒れ! お前のお友達の優男もあんな調子、そしてお前は背中にナイフが突き刺さってる状態だ! 負けたのはお前らだ!」


「……お前……そんな薬に頼ってまで、強くなりたかったのか……」


「あぁそうだ! そして俺は強くなった! もう誰にも俺を馬鹿にさせねぇ!! 俺は最強だ!!」


「……お前は強さってものを知らなさすぎる」


「なんだと?」


「その程度で最強を名乗るな!」


「はん! そんなこと言ってられるのか? お前もすぐに地面に寝かせてやるよぉ!!」


 弓島はそういいながら俺に襲い掛かってくる。

 しかし、背中の痛みのせいで俺はいつも通りの反応が出来ず、弓島の攻撃がよけられなかった。


「ぐっ!」


「先輩!!」


 俺は膝をつき、笑みを浮かべる弓島を見上げる。


「へへ、あの時とは逆だな……いい気味だぜガキが! あの時の屈辱……今ここで晴らさせてもらうぜ!」


「うっ……」


 俺は頭を足で踏みつけられ、そのまま地面に這いつくばる。


「はは! 岡崎でも叶わなかったお前を俺が今圧倒している! なんていい気分だ!!」


「くっ……」


「どんな気分だ? 見下してたやつに見下される気分は!!」


「……」


 背中に激痛が走る。

 このままじゃ本気でヤバイ。

 俺はそう思いながら、立ち上がろうとする。

 しかし、そんな俺を気にする様子もなく弓島は続ける。


「お前は本当に馬鹿な奴だなぁ!! 中学時代は惚れた女の為に汚れ役を被り! 今回もその女の事をちらつかせたら直ぐにお前は岡崎とともにここにやってきた! そんなにあの子が好きだったのか? 笑えるなぁ! その子からお前は恨まれ、お前にいいことなんて一つもないのに、その子の為にまたお前は動いた! 真実の愛ってやつか? アハハハハハ!!」


「……うるせぇよ……」


「あ?」


 そういわれた瞬間、俺は頭の中で村谷の事を考えてしまった。

 そして自然と口から言葉がこぼれた。


「悪いかよ……惚れた女子の為にそいつの彼氏をボコって泥を被っても……どんなに恨まれても……俺はあいつにはあのバカみたいに幸せそうな顔で笑っててほしかったんだよ……」


「そうか……ならその子をひどい目にあわせた方が……お前は絶望するんだろうなぁ~」


 弓島はニタァっと笑いながら俺に続ける。


「村谷千咲ちゃんだっけ? その子の高校も家ももう把握してる! そこの二人が出演出来なかったAVに代わりに出演してもらうなんてどうだ?」


 弓島が村谷の名前を口にし俺にそう言った瞬間、俺の中で何かが切れた。


「お前………そんなことしてみろ……」


「あ? 何を言って……な、なんだこいつ!!」


 俺はそういいながら、体を起こし始める。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る