第91話

「分かった、息子には今後一切彼女に近づかせない事を約束しよう」


「あともう一つ、お前が息子を今まで通り学校に通わせたいということは……あの動画の悪役はずっと俺じゃ無いと行けなくなるよな?」


「あぁそうなる。だから君の言うことは出来るだけ聞こう」


「そうか……ならお前の馬鹿息子が今度同じような事をしないか見張ってろ、また同じような話しを聞いた瞬間、俺はまたお前の息子の前に現れるぞ」


 脅しのつもりだったが、大人であり社長である岡崎の父親には弱かったかもしれない。

 しかし、子供の為にここまでする親だ、きっと息子が再び襲われる事は避けたいはずだ。

「……良いだろう、それとこれは手付金とでも思ってくれ」


 岡崎の父親はそう言い、俺の前に札束を出してきた。


「要らねぇよ……その代わり約束は守れよ」


「金では動かぬか……あの動画に関しても既に削除済みだ、転載された動画も極力削除しよう。警察の方にも既に根回しはすんでいる君はいつも通り明日からも学校に通うと言い」


「いつも通りねぇ……」


 俺は乾いた笑みを浮かべながら岡崎の父親に言う。


「んなもん、どこにも無くなっちまった」


 そうして岡崎の父親との話し合いは終わった。

 翌日、俺はその事を高弥に伝えに行った。


「その条件を……呑んだのか?」


「あぁ………これが一番平和的な解決だ」


「どこがだよ! 君は被害者だろ! 訴えればこっちが勝てるレベルだ! なんで君が泥を被る必要がある! 今からでも遅くない、証拠を警察に!!」


「警察にも岡崎親父の息の掛かったやつがいる、証拠を提出しても握り潰されて終わりだ」


 警察にも手を回してる。

 岡崎の親父が言ったその言葉は一件ただの会話の一言だが、そこには大きな意味がある。 それは、警察の中にも自分の息のかかった者がいる。

 そう言う意味だった。


「だからって……だからってなんで平斗がこんな目に合わなきゃいけないんだ! 村谷さんはあれ以来君を憎んでるし……こんなの ……こんなのおかしいだろ!」


「………大丈夫だ高弥」


 悔しそうに言う高弥に俺はそう言うしか出来なかった。


「君は……本当に村谷さんの事を……」


「あぁ………好きだったよ」


 自分の積み上げた物の大半を投げ捨てでも助けたいくらい。

 俺は彼女に惚れていたのだ。





「ここが村谷の高校か」


 俺と高弥は電車に乗って二駅離れた村谷の通う高校に来ていた。


「あぁ、でもテスト期間中でもう生徒なんて残ってないと思うけど」


「それはそうだが……」


 でももしかしたら万が一と言うこともある。 俺と高弥は校門から離れた物陰で学校から出てくる生徒達を見ていた。


「あのさ、確認しておきたいんだけどいい?」


「なんだよ?」


「君はもう本当に村谷の事を好きじゃないんだよね?」


「なに馬鹿なこと言ってんだ、とっくに諦めたよ」


「なら良いけど……そうだな、やっぱり平斗には初白さんか城崎さんが良いと思うよ、二人とも君に懐いているし」


「なんでそうなるんだよ、あの二人は後輩だ」


 それに片方はお前が好きなんだっての。


「それでいつまでこうやって影から見てるつもりだい? 明日もテストだよ?」


「それもそうだな……もしかしたらもう帰っちまったかもしれないしな……」


 俺たちはいつまで経っても村谷が出てこないのを確認し、その日はそのまま帰った。

 帰り道、高弥は俺に口うるさく色々言ってきた。


「平斗、君もそろそろ新しい恋に生きるべきだと思うけど」


「なんだよ藪から棒に……それに俺はお前みたいにモテないから」


「何言ってるんだよ、モテモテのくせに」


「はぁ?」


 時々高弥もアホな事を言うな。

 学校中の嫌われ者の俺がモテるはずなんてないのに。


「なんでも良いけど、あんまりこの件には首を突っ込まない方が良いんじゃ無い?」

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