第61話

「お前ら……」


 一体何をしに来たんだこいつらは……てかなんで俺の家を知っている。

 俺はため息を吐きながら玄関先で二人に事情を聞く。


「兄貴! まだ兄貴から俺を弟分にすると言って貰ってねぇ! だから今日はこうして頼みに来たんだ! 悟は勝手についてきたんだけど」


「おい! お前なんかが平斗さんの弟分になんかなれるか! 平斗さんは忙しいんだ!」


「あぁん!? お前最初は兄貴の事かなり嫌ってたじゃねーかよ!!」


「んな訳あるか! 平斗さんはなぁ! お前みたいな小物に構ってる暇はないんだ!」


「お前も小物だろうが!」


 二人は顔を合わせ、人の家の玄関前で喧嘩を始めてしまった。

 アホかこいつらは……。

 俺はため息を吐きながら、手を頭に当てる。

「とにかく帰れ、俺は忙しいんだ」


「帰れません! 俺は兄貴みたいになりたいんです!」


「俺も貴方にまだちゃんとお礼を言っていません!」


 面倒臭ぇなぁ……。

 別に良いって言ったのに。

 

「てか、お前ら良く俺の家が分かったな、一体誰に聞いた?」


「「真木先輩に聞きました」」


「あんにゃろう……」


 あいつには今度文句を言っておいてやろう。 勝手に人の個人情報を教えやがって。

 

「はぁ……良いから帰れ、俺は門下生の指導で忙しいんだよ」


「なら、俺も門下生になります!」


「俺も! この道場に入会して貴方のようになれるなら!」


「………いやそんな急に」


「あらあら、それなら見学していく?」


「え?」


 俺が対応に困っていると、母さんが後ろから笑顔でそう言った。

 そして……。


「なんでこうなった……」


 悟と大島は道場の稽古を見学して行くことになった。

 メッチャ視線感じるんだけど……。


「あ、あの島並さん……あの見学者の人、凄いこっちを見てますけど………」


 ほれ見ろ、城崎さんも困ってるじゃないか。 

「あぁ、きっと城崎さんが可愛いから二人とも見入ってるんだよ」


「え? そ、そうですかね? で、でも私今凄い汗掻いてるし……」


「まぁ、そう言うのが好きな男子も居るってことだ。よし! 気にせず続きしようか!」


「はい!」


 俺は見学している二人を無視して城崎さんの指導に集中する。

 一時間ほどすると何やら父さんが二人に話しをしていた。

 俺は城崎さんの指導中で何をしていたのか良く分からなかったが、何やら紙を渡していたところを見ると入会の資料を二人に渡していたのだろう。

 いや、あいつら入会とかしないよな?

 学校以外でもあいつらに付きまとわれるのは勘弁だぞ……。

 

「兄貴!」


「島並さん!」


「ん? なんだ?」


 稽古間の小休憩中、二人が俺の元にやってきた。


「今日はとりあえず帰ります! 来週からよろしくお願いします!」


「は? 来週?」


「俺もよろしくお願いします!」


「おい、お前ら何を……」


「「それじゃあ失礼します!!」」


「いや、人の話を聞け!」


 二人はそう言って道場を後にしていった。

 帰ってくれたのは良いが、何か嫌な予感がする。


「おい! 平斗!」


「いてっ……なんすか茜さん……」


「さっさと私の稽古に付き合えよ!」


「あぁ、そう言えばそうでしたね……型稽古でもしますか?」


「おう! さぁ、さっさと道場に来い!」


「はいはい」


 俺は休憩を終え、稽古に戻った。

 城崎さんには俺と茜さんの型稽古を見ているように言い、俺は茜さんと型稽古を始める。

「はっ!」


「ん」


「せいっ!」


「はい」


「やぁっ!」


「うぐっ……今のは結構聞きました」


「へへ、そうだろ? 昔の私とは違うんだよ!」


「うっ! まぁ、昔から男勝りなとこは変わってませんけど」


「なんだとぉ!」


「おっつ……痛いですよ」


「私! だって! 女だ! 男に! なった覚えは! ない!」


「まぁ、確かに美人ですからね茜さんは言葉遣いがあれですけど」


「な、何言ってんだよ! アホ!!」


「おふぅっ!」


 俺がそう言った瞬間、茜さんは先程まで俺の手のひらに向けて打っていた拳を何故か俺の腹めがけて打ってきた。


「な、なぜ……」


「お、お前がアホなこと言うからだ! 馬鹿!」


「い、言ってないのに……」

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