第60話



 土曜日、俺は茜さんとの約束で道場に指導役という形で顔を出すことになっていた。

 最近は色々面倒事に巻き込まれて疲れているのだが……まぁ約束したし仕方ない。

 俺は道着に着替えて道場の方に向かう。


「お、平斗来たのか」


「あぁ、ウォーミングアップをしたら指導を手伝うよ」


「頼むぞ、城崎ちゃんも来てるからな」


「あぁ、わかった」


 廊下で師範である親父に会い俺は挨拶を交わす。

 父さんは俺や竹内さんよりも強い。

 まぁ、師範なのだからそれが当たり前なのだが、あの化け物じみた力を持っている竹内さん以上の力を父さんは持っている。

 父さんは以前、刑事だったのだが、ある事が切っ掛けで退職し、今はこの道場の経営と指導者として色々なところに指導に出向いた指導料で生活を支えている。

 それ以外にも収入源はあるようだが、その収入に関しては俺は良く分かっていない。

 まぁ、一言言えるのは父さんはかなり金を稼いでいるという事だ。

 じゃなきゃ、道場経営だけで暮らしてなんていけない。


「お願いします」


 俺はそう言って礼をして、道場の中に入っていく。

 中に居るのは学生がほとんどだ、小学生から高校生まで幅は広い。

 休日という事もあって人数は多いが、道場は結構広いので全然余裕だ。


「あ、あの! 島並さん」


「ん? あぁ、城崎さん。聞いてるよあの日からほぼ毎日道場で頑張ってるんだって?」


「はい、実力はまだまだですけど……」


「そっか、それじゃあ約束したし、今日も俺が指導しようか……あとは……」


「よぉ平斗」


「いでっ……茜さん……居たんですね」


「最初から居たわよ! さっさと私の稽古につきあえ!」


「わかりましたから、少し待っててくださいよ、茜さんは大会の準備もあるでしょ? 師範の稽古を受けてからにしてください」


「わかってるわよ! 瑠香ちゃんに指導と称して変な事するんじゃないわよ!」


「しませんよ……はぁ……あの人は全く……じゃあ稽古始めていくか」


「はい!」


 俺は当分の間、城崎さんと茜さんの指導を任された。

 まぁ、土日と平日の暇な日だけって話だし、別に良いか。

 俺はそんな事を考えながら、城崎さんの指導をしていく。

 この道場では年上の門下生が年下の門下生に指導することが多い。

 父さんいわく、教えることでも教わることでも人は成長するから、そういう風にしているらしい。

 流石は学習意欲が高いだけあって、城崎さんは成長が早い。

 教えていて成長しているのが見ていてわかる。

 この子はもしかしたら、結構強くなるかもしれないな……。


「よし、じゃあ一旦休憩にしようか」


「はぁ……はぁ……はい……」


 関係ないけど……なんか女子が息を荒げるのは少しエロいな……あんまり見ないでおこう。

 俺がそんな事を考えていると、母さんがエプロン姿で道場にやって来た。


「平斗ぉ! お客さんよぉー!」


「え?」


 俺に客?

 高弥とは何も約束していないし、一体誰だろうか?

 というか、高弥だったら事前に連絡してくるはずだ。


「ごめん、城崎さん少し待ってて」


「はい、わかりました」


 俺は城崎さんを置いて、道場から自宅の方に母さんと一緒に戻った。


「客って誰?」


「なんか、同じ学校の後輩とか言ってたわねぇ?」


「後輩?」


 なぜだろうか、非常に嫌な予感がする。

 いや多分俺の創造通りにはならないはずだ、あいつらは俺の家を知ってるわけ無いし……。

 俺がそんな事を考えながら、自宅の玄関に向かった。


「あ! 兄貴!」


「島並さん!」


 残念なが俺の予想は当たってしまったらしい。

 玄関に居たのは私服姿の大島と悟だった。

 なんでこいつらここに居るんだよ……。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る