第35話
「まぁ、そんなわけで島並さんの家は少し訳アリなんだよ」
「そうなんですか……なんかいろいろ大変そうですね」
「あぁ……でも島並家の人達はみんないい人だから安心しな、道場にも直ぐになれるよ」
「は、はいありがとうございます」
見た目は怖いけど、茜さんはなんだかんだで面倒見がよさそうな人だ。
来たばかりの私を気遣ってなのか、それとも同じ女子同士だからなのか、いろいろなことを教えてくれる。
そんなことを話している間に、島並さんと竹内さんの組手が終わろうとしていた。
「お、そろそろ終わりみたいだなぁ~、さてと平斗に水でも持ってってやるかなぁ~」
茜さんは楽しそう鼻歌を歌いながら、道場の奥にある更衣室に向かっていった。
私は組手が終わり、床に大の字になって動けなくなっている島並さんの元に向かう。
*
「はぁ……はぁ……」
「はぁ……平斗……なかなかやるな……結構ギリギリだったぞ……」
「こっちは……全力であれですよ……」
強い……本当にこの人は強い。
正直勝てる気がしない。
俺はすべて出し切り、そのまま床に倒れ込んでいた。
竹内さんはまだ余力があるらしく、そのままシャワーを浴びに行ってしまった。
「全く……あの人は……」
「あ、あの……だ、大丈夫ですか?」
「え? あ、あぁ大丈夫だよ……疲れただけ」
そういって俺の顔を覗き込んできたのは城崎さんだった。
正直、あまりカッコいい姿ではないな。
負けて床に倒れるなんて……スタミナがないんだな俺……。
「あ、あの……す、すごかったです!」
「え?」
俺が起き上がると、彼女は興奮気味に俺にそういった。
「一つ一つの動きが綺麗でした! 私もあんな風になれますか!?」
先ほどまでとはまるで雰囲気が違っていた。
まるで夏休み前で興奮している小学生のようだ。
「まぁ、毎日頑張れば大丈夫だよ、これから頑張ってね」
「あ、あの……やっぱり島並さんはもう……道場には来ないんですか?」
「あぁ、今日はただの手伝いだからね」
「そ、そう……ですか……」
俺がそう言うと、城崎さんは少し寂しそうな表情をして俯いてしまった。
「だ、大丈夫だよ、竹内さんも師範代も居るし! 二人は俺より教え方が上手だから安心してよ!」
「……はい」
うーん、なんでそんな寂しそうな顔をするんだ?
俺の教え方ってもしかして結構わかりやすかった?
って、そんなわけないか……。
そんなことを俺が考えていると、今度は茜さんが近づいてきた。
「平斗、今日もこっぴどくやられたね~」
「勝てるわけないでしょ? あの化け物に……あ、ありがとうございます」
茜さんは俺にスポーツドリンクを持ってきてくれた。
「ゴク……ゴク……はぁ……ありがとうございます」
「お疲れさん、まだまだ鍛錬が足りないんじゃない?」
「そんなのは分かってますよ、でもあの人に勝つにはどれだけ鍛錬を積めば良いのか……」
「じゃ、じゃぁまた道場に通えばいいじゃない……」
「いえ、俺はもうこれ以上の鍛錬を積む気はありません」
「も、もう顔出さないのか……」
「いえ、たまには手伝いで顔を出しますよ」
「そ、そっか……こ、今度たまには買い物付き合えよな! お前は私の舎弟なんだから!」
「いつそうなったんですか!!」
「舎弟なんですか?」
「だから違うって!!」
いつから俺は茜さんの舎弟になったんだか……。
今日の稽古はこれで終了。
城崎さんは茜さんに連れられて、シャワー室に向かって行った。
俺は道場の掃除をし、自宅に戻って自宅の風呂でシャワーを浴びる。
上がってくると母さんが夕飯の準備をしていた。
今日は門下生を入れての食事会、母さんは一人で十何人分の料理の下ごしらえをしていた。
「母さん、手伝うよ」
「あら、大丈夫よ、平斗は疲れてるでしょ? 少し休んでなさい」
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