第34話
「おいおい、どうした! もっと本気で来い!」
「いや、もう結構本気ですよ、人間が化け物に勝てるはずないでしょ」
「誰が化け物だ!」
「うぉっ! その力が馬鹿力が化け物だって言ってんですよ」
竹内さんの攻撃をギリギリで交わしながら、俺は竹内さんの隙を伺う。
しかし、この人には隙というものが無い。
何もかもを見透かしたような目で俺を見て、強烈な一撃を俺に向けてくる。
本当にこの人は化け物だ……まるで野生のトラを相手にしているような感じだ。
竹内さんから放たれる闘志を感じるだけで、俺の足は自然に後ろに下がろうとする。
「くっ! 少しは手加減とかしてくれないんですか?」
「お前相手に手加減なんかいるか? さっさと本気で来い!」
「うわっ! あっぶねぇ……」
竹内さんの拳が俺の脇をすれすれで通過する。
そろそろ、集中しないと攻撃が当たってしまいそうだ。
「すぅ……はぁ……」
大きく息を吸い、そして俺は吐き出して再び竹内さんの方に向き直る。
「じゃあ、ちょっと集中します」
「お、やっとか」
「……行きますよ」
俺はそう言って、竹内さんに向かっていく。
*
私の両親は国際結婚だった。
父は日本人、母はロシア人。
幼い頃は日本で生活をし、小学校に上がったタイミングでロシアに戻った。
そして、中学に上がるタイミングで私は日本に戻った来た。
私は格闘技が大好きだった。
技と技のぶつかり合い、それを見るのが好きだった。
中でも日本の武道や中国の武術は動きが綺麗で好きだった。
最初は日本のアニメがきっかけで格闘技に興味を持った私は、いつしか自分でも格闘技や武術をやってみたいと思うようになった。
今年、高校に進学したタイミングで私は自分でも武術をやってみようと思い、一番近くにあった島波流格闘術という道場を見つけ、そこに通うことを決めた。
そして、今日が初めての稽古の日だったのだが、私は目の前で起こっている先輩たちの動きから目を離せなくなってしまった。
こんな動きを本当に同じ人間がしているのだろうか?
しなやかであり、力強い、そんな動きを私は綺麗だとすら思っていた。
「どう? あの二人すごいでしょ?」
「は、はい……二人とも本当に人間ですか?」
「まぁ、誰でもそう思うよな~、でもれっきとした人間だから安心しな」
そう言って、私に声をかけてきたのは道場の先輩である茜さんだ。
気の強そうな女性だが、容姿は整っていてすごく綺麗だ。
手足も長くて、なんだかモデルさんみたいだ。
「あの二人は、かなり小さいころから師範代に稽古をつけてもらってたからね、ここの道場の中じゃ二番目と三番目に強いよ」
「一番はやっぱり師範代ですか?」
「まぁね、竹内さんは師範代を超えようと毎日頑張ってるけど、平斗は高校に入ってから、勉強に集中するって言って全然道場に顔出さなくなっちまったし……」
「そうなんですか?」
「そうだよ、この道場に私を誘ったのはあいつなのに……あの野郎全然顔ださねぇ……」
茜さんはそんなことを言いながら、ずっと島並さんの事を目で追っていた。
「あの……じゃあ、なんで島並さんは今日道場に?」
「あぁ、人でが足りないからって、師範代が呼んだらしいんだ。平斗は師範代の事を心から尊敬してるから、頼まれたら嫌とは言わないだろうし」
「そうなんですか? 親子仲がすごくいいんですね」
「あぁ……えっと……これ言って良いのかな? 実はあの二人……てか、奥さんもだけど、平斗とは血が繋がってないんだ」
「え? そ、それってどういう……」
「あ、えっと……でもみんな知ってるしなぁ……」
茜さんは何か考えた後、島並さんの事を話してくれた。
どうやら、島並さんは師範代と奥さんの本当の子ではなく、養子として引き取られたらしい。
いったいどういう経緯でそうなったかは、茜さんも知らないらしい。
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