第16話

 俺は竹内さんに連れられ、無理やり組手の相手をさせられた。

 この人は本当に毎回急だな……。


「はぁ……はぁ……」


「はぁ……へ、平斗……流石衰えてないな……」


「竹内さん……高校生相手にガチにならないでくださいよ……」


「馬鹿……ガチじゃねーと……お前に勝てねぇんだよ……」


 俺は脱いだ制服とワイシャツを拾い上げ、額の汗を拭う。

 

「はぁ……汗がヤバイな……シャワー浴びてきます……」


「よし! じゃあ一緒に行くか!」


「竹内さんとですか? 気色悪いっす……」


「なんだとこらぁ~、裸の付き合いをしろぉ~! 師範代、シャワー室借ります!」


「おう! 良いぞ!」


 相変わらず竹内さんは強引だ。

 昔からこの人は強引だった、いつも俺を引っ張り出し、稽古に誘って来る。

 そんな人だ。

 真面目でまっすぐな性格の竹内さんは俺にとって兄のような存在だった。


「平斗、お前……」


「ん? なんすか?」


「いや……中々デカいな」


「どこ見ながら言ってんすか……」


 俺は竹内さんとともに道場の脇にある、シャワー室でシャワーを浴びる。

 無駄に広いシャワー室だが、土日の稽古終わりは門下生でいっぱいになる。

 今は俺と竹内さんの二人だけだが……。


「お前……まだ昔のあの事を気にしてるのか?」


「……まぁ……」


「だから、お前は道場を継がないのか?」


「……はい、継ぐ資格が俺にはありません」


「……資格ねぇ……俺はお前しかないと思うが……」


「だめですよ……理由はどうあれ……俺は一般人を……」


「……俺はお前の行為は正しいと思うぞ、いざというときに誰かのために力を使えなくてどうする? お前は何のために師範代から技を教わった?」


「……でも……俺は……そのせいで父さんに迷惑を……」


「……子供は親に迷惑をかけるもんだ、それに……あの件に関しては師範代もお前の事を信じてる」


「……でも……俺はあの人の……」


「本当の子供じゃないから、迷惑はかけたくないと? アホかぼけ!」


「うわっぷ! な、何をするんですか!」


 竹内さんは笑いながら俺にシャワーをかけてくる。


「安心しろ、あの人はお前を本当の息子以上に大事にしてるよ……それにあの人はお前に道場を継いでほしいと思ってるよ」


「……それは分かってますよ……痛いほど……」


 俺はこの家の夫婦と血縁関係は無い。

 いろいろあって、十年ほど前にこの家の夫婦に引き取られたのだ。

 父さんと母さんは優しく、そして時には厳しい人だった。

 だから俺はこの両親を尊敬しているし、慕ってもいる。


「はぁ~さっぱりした……」


 シャワーから上がると、母さんがニコニコ笑いながら俺と竹内さんを呼んだ。


「二人ともぉ~! ごはん出来てるわよぉ~!」


「あ、すんません奥さん! ごちそうになります!」


 俺は竹内さんとともに家の広間に向かう。

 うちではこうやってたまに門下生を呼んでごはんを食べる。

 うちは昔ながら日本家屋であり、広い家と道場が一緒になっており、祭り付きの両親はよく家に門下生を招いて食事会をする。

 今日は竹内さん一人だけだ。

 竹内さんは一人暮らしをしており、よく家でご飯を食べていく。


「いやぁ! いつもすいません!」


「うふふ、良いのよ、平斗もお父さんも竹内君が居ると喜ぶから」


「なに! そうなのか! 平斗?」


「なんで俺に聞くんですか……嫌だったら、嫌っていうでしょうが」


「あはは! そうかそうか! いやぁ~俺には自炊というものができなくてなぁ~。師範の奥さんの手料理無しじゃもう生きていけないんですよ!」


「まぁ、お上手」


「平斗も竹内もまだまだ育ち盛りだからなぁ! どんどん食え! そして育て!」


「父さん、食うだけじゃそこまで育たないよ……」


 これが俺の家の日常だ。

 優しい両親に、あまり口には出さないが、本当の兄のように思っている竹内さん。

 にぎやかで愉快な家族が俺は好きだった。

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