道場での俺と学校での俺

第15話

 しかし、そうなると俺は高弥とあのアホの恋愛を応援しなければいけないな……。

 うーむ、協力しないと言った手前、こうも簡単に手の平を返して協力するとも言いづらいし……。


「うーむ……」


「どうしたんだい? 急に何か考え始めて」


「いや、俺はどうするべきかと思ってな」


 このままあのアホと高弥が付き合うとしたら、完全に俺は邪魔者だ。

 友人としても先輩としても、相手が誰だったとしても、友人の恋路の邪魔はしたくない。

 

「とりあえず、明日から俺は一人で帰ろうと思う」


「え!? なんで?」


「そりゃあ、いろいろ二人で話すんだろ?」


「ま、まぁそうだけど……でも、そんな急に距離を開けなくても……」


「でも、いずれはそうなるんだ、なら早めにそうしておいた方が良い」


「いや、でも初白さんはそんな子じゃないよ! これからもいつも通りさ……」


「あのなぁ、男と女だと考え方が違うんだぞ? お前が良くても初白がよくない場合だってあるだろうが」


「ま、まぁ……そうだけど……」


 本当に高弥は良いやつだな……。

 自分が初白と付き合ったら、俺が一人になると思って俺の事まで考えて……どこまでお人好しなんだか……。

 でも、実際高弥は初白と付き合ったとしても、変わらず俺と接してくれそうだ。

 それがこいつの重荷にならなければ良いが……。




 平斗はやっぱり怖いのかもしれないな……初白さんに自分過去を知られるのが……。

 明日から一人で帰ると言い出したり、男と女で考え方が違うとか言い出したり。

 きっと、初白さんが真実を知ったとき、どんな反応をするのか少し怖いのだろう。

 もしかしたら、改めて自分の噂について考えて、僕に悪影響が出ないように、僕とも距離を置こうとしているのかもしれない。

 でも、僕はそんなの全然気にしないのに……。

 初白さんにはわかってほしい、この島並平斗という男がどれほど優しくていい奴なのか……そうすれば、もしかしたらあの噂は消えるかもしれない。


「平斗」


「ん? なんだ?」


「明日……楽しみだね」


「何がだよ?」


「なんでもないよ……」


「ん? 変な奴だな」


 今日の夜、僕は初白さんに真実を話す。

 彼女はそれを知ったとき、平斗に何を思うのだろうか……。





「ただいま」


 俺は高弥と別れ、自分の家に帰宅した。

 帰り際、高弥は初白の元に行って何かを話していた。

 やっぱりあいつ……本気で初白の事を……。


「あら、お帰りなさぁ~い」


「ただいま母さん、父さんは?」


「お父さんは今、道場で稽古中よ、顔出してみたら?」


「あぁ、そうするよ」


 俺の家は武術の道場をしている。

 島波流格闘術という流派の武術で、父さんはそこの師範代だ。

 俺も中学までは武術を教えてもらっていたが、高校に入ってからは全く武術をしなくなった。


「ただいま、父さん」


「ん? おぉ! 平斗! 帰って来たのか! 遅かったな!」


「うん、今さっき」


「どうした? お前が道場に来るなんて久しぶりだな!」


 道場には社会人から小学生までの幅広い年代の人たちが武術を習いに来ていた。

 うちの道場は結構繁盛していて、俺はいずれは後継になんて言われてはいるが、正直なれる気がしていない。

 父さんと話をしていると、一人の男性が俺の元に近づいてきた。


「平斗、久しぶり」


「あ、竹内さん、お久しぶりです」


 やせ型で筋肉質のこの人は竹内慎太郎(たけうち しんたろう)さん。

 うちの道場で現状一番強い人だ。

 現在は大学二年生で、総合格闘技の有名選手でもある。

 兄貴肌で面倒見も良く、道場の兄貴的存在だ。


「平斗、もう武術はやらないのか?」


「えぇ……まぁ……俺にはその資格がないので……」


「……あの事気にしてるのか?」


「……まぁ」


「んなもん、お前が正しいと思ってやったことだ! 気にするな!」


「ですが……俺は一般人相手に……」


「やかましい! いいから組み手するぞ!」


「え? この恰好で!?」


「ほら、行くぞ!!」


「うわっ! 竹内さん! ちょっと!!」

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