第2話

「ぶー、けちぃー」


「なんとでも言え」


 俺と彼女がそんな話をしていると、職員室に向かった高弥が戻ってきた。


「お待たせ平斗、あれ? その女の子は?」


「いや、この子は……」


「そ、それじゃあ私、これで失礼します!!」


 彼女は高弥が教室に入ってきた瞬間、一目散に教室から出て行った。

 高弥に用事があったんじゃなかったのだろうか?

 なんてことを俺が考えていると、高弥が俺に尋ねてきた。


「あの子は?」


「よくわからん」


「え? 何か話てたんじゃないの?」


「まぁ、一言言えるのはお前がイケメンってことだな……」


「ん? 何言ってるんだよ」


「どうでもいいだろ? それより早く帰ろうぜ」


「あ、待ってくれよ!」


 俺と高弥はそんな話をしながら、学校を後にした。

 あの子は一体何なんだったんだろうか?

 俺に協力を頼んできたくせに、いざ本人がやってくると逃げるようにその場からいなくなった。

 まぁ、正直俺にはどうでもいい話だ。

 告白でもなんでも好きにすればいいし、俺の知ったことではない。


「そういえば、職員室には何のことで呼び出されたんだ?」


「いや、大した話じゃないよ……夏の英語スピーチコンテストに出てみないかって話だよ」


「へぇ~すげーじゃん、出ないのかよ?」


「正直面倒でさ、練習とかもあるだろうし」


「ま、そうだろうな」


 六月の下旬、俺と高弥はいつも通り話をしながら自宅に帰った。

 あの一年生の子は今月中に高弥に告白するだろうか?

 そうだとしたら、恐らく振られるだろう。

 俺の予想だが、高弥はあぁいう子はタイプではない。

 前にギャルみたいな先輩から告白されてた時は、すごく冷たく振っていた。

 あの子もその先輩のような感じが多少するので、絶対に玉砕だろう。

 




 翌日の昼休み、俺がいつも通り高弥と教室で昼食を食べていると、あの子がやってきた。


「あれ? あの子って昨日の……」


「うわ……あぁ、たぶんお前をご指名だろうから、行ってやれよ」


「え? どうしてだい?」


「なんでお前は月に何回も告白されるくせにわかんねーんだよ……告白だよ、多分」


「え? そうかな? なんか彼女、平斗を見て手招きしてるけど……」


「え?」


 そういう高弥の言葉通り、彼女は俺の方に視線を送って手招きをしていた。

 彼女の目は「さっさと来い」と俺に強く言っているような気がした。


「はぁ……ちょっと行ってくる」


「あの子、やっぱり知り合いなの?」


「いや、なんでも……はぁ……」


 俺はため息を吐きながら、彼女の方へ歩い行く。


「昨日会ったばっかりの先輩を手招きで呼び出すなんて、随分図々しいな」


「もぉ! やっと来たしぃ! ほら、早く行きますよ!」


 彼女はそういうと、いきなり俺の腕を掴んで引っ張ってきた。


「お、おい! 急になんだ!」


「良いから来てください」


 俺は言われるがままま、引っ張られれがままに彼女についていった。

 彼女は人気の無い階段上の踊り場につくと、俺の腕を離して俺に向かってこう言った。


「それで、昨日の話の続きですが」


「いや、話続いてたの?」


「何を言ってるんですか! 当たり前じゃないですか!」


「じゃあ、なんで昨日は高弥がきた瞬間に帰ったんだよ」


「そ、それは……あの状態で告白しても百パーセント振られるじゃないですか!」


「じゃあ、どんな状態ならいいんだよ……」


「とにかく! 先輩は私に協力してください!」


「なんで命令系なんだよ……昨日も言ったが、俺にメリットのないことはしたくない」


「そういうと思って、先輩に報酬を用意しました」


「ほぉ……聞こうじゃないか」


 そう胸を張っていう彼女。

 報酬とは一体何だろうか?

 正直、女の子を紹介するといわれても俺にはぐっと来ない。

 どうせ自分に彼女なんて出来るわけがないとわかっているからだ。

 まぁ、食堂のタダ券とか売店の割引券なら考えてやらないこともない。

 でも、こいつたぶんアホだろうしなぁ……なんか「女でも紹介しておけば協力するだろ?」みたいな考え持ってそう……。

 その場合は当初の通り断ろう。

 俺がそんなことを考えていると、彼女はポケットから何かを取り出した。


「これ、私の友達のトークアプリのIDです! 私に協力してくれたら、私の友人を紹介します!」


「じゃ、俺は帰るから」


「あぁ! なんで帰るんですかぁ~」


 予想通り過ぎて草も生えないな……。

 俺が帰ろうとすると、彼女は俺の制服を掴んで俺を引き留める。


「なんでですか! 一年生女子のIDですよ! しかも可愛いんですよ! 健全な男子高校生だったら喉から手が出るほど欲しいんじゃないですか!?」


「いろいろ言いたいことはあるが、とりあえずお前がバカだってことが分かった。あと友人を売るな」


「な! 私は馬鹿じゃありません! この子にはちゃんと了解取ってますよ!」


 了解しちゃだめだろう……。

 そんなことを俺が思っていると、彼女はうーんと悩みながら俺に尋ねてきた。


「じゃあ、何ならいいんですか? も、もしかして……私のからd……」


「は? セクハラやめてくれる?」


「なんですか! そのごみを見るみたいな目! 私じゃ不服なんですか!!」


「不服っていうか、興味がわかない」


「な、なんでしょう……別に見せる気ないけど腹立つ……」


「わかったろ? 俺は君を相手にしている時間はないんだ」


 俺はそういって、彼女に背を向けてその場を去ろうとする。

 

「お願いしますよぉ~」


「んなもん、自分で努力して自分で高弥を惚れさせろ。人の力をあてにして楽しても、どうせいい結果なんてないぞ」


 俺は彼女にそういい、自分の教室に戻っていった。

 教室に戻るとなぜかわからないが、クラスメイトが皆、俺に注目していた。

 俺は教室に入る瞬間少し驚き、思わず一瞬足を止めてしまった。


「な、なんだ? この雰囲気……」


「平斗、あの子とどこにいってたんだい?」


「え? いや、少し話をしてきただけだぜ?」


 俺は自分の席に戻り、目の前でパンを食べる高弥にそう言う。

 俺と高弥が話をしていると、なぜか教室にいるクラスメイト達が俺と高弥の話に耳を傾けていた。


「話って何を?」


「あぁ……まぁいろいろだよ……」


 俺は流石に、彼女の話を高弥にすることは出来なかった。

 確かにむかつく一年生ではあったが、このことを高弥本人に言うのはダメな気がした。

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