第3話
「驚いたなぁ、平斗に女の子の知り合いが居たなんて」
「知り合いなんかじゃねぇよ」
「でも、教室まで尋ねに来るくらいだし……」
「正直名前も知らないしな」
「え? じゃあ、どんな関係?」
「さぁな、そんなことよりさっさと飯食おうぜ」
「いや、そんなことよりって……」
俺は高弥の話を聞きながら、食事を続ける。
「平斗があの子と出て行ってから、みんな色々噂してたよ」
「あっそ、噂なんてそのうち無くなる、気にしないのが一番だ」
どうせ、クラスで目立たない俺みたいな奴になんであんな可愛い知り合いがいるんだとか、そんな感じだろう。
それか「え? あいつって女と話せるの?」みたいなそんな感じだろう。
別に俺はクラスで浮いているわけではないが、あまりクラスに馴染んでいない自覚はあった。
クラスメイトともあまり話をしないし、話すとしても高弥と話すくらい。
それを不便に感じたことはないし、これと言って話す必要もない。
まぁ、それでも高弥に少しは自分以外の友人を作れと言われることはあるが……。
「あ、そういえば平斗」
「なんだ?」
「今日の放課後、少し付き合ってくれないか?」
「どこに?」
「買い物だよ、ちょっと買いたいものがあってね」
「まぁ、いいけど。どこに行くんだ?」
「駅前のショッピングセンターでいいよ、買いたいのは文房具だし」
「了解」
*
放課後、俺は高弥と一緒に駅前のショッピングセンターに来ていたのだが……一つ気になっていることがあった。
「えっと、文房具は……」
案内板を見ている高弥は気が付いてはいないようだが、誰かが俺達を学校をからつけてきている。
ここに来る間も誰かからの視線をずっと感じていた。
しかし、まだ誰がつけてきているのかは分からない。
まぁ、恐らくだが目当ては高弥だろう。
「あ、あった、二階の本屋の隣か……」
「さっさと行こうぜ、買うものは決まってるんだろ?」
「そうだね、じゃあ行こうか」
俺と高弥は案内板を後にし、文房具売り場に向かった。
俺達が移動しても誰かに見られている感覚は消えなかった。
まぁ、ただ遠くから高弥を見ているだけのストーカーだと思うし、とりあえずは放っておくか……。
俺はそんなことを考え、高弥とともに文房具店に向かった。
「えっと、定規と……あとはルーズルーフ……」
「俺、本見ててもいいか?」
「あぁ、いいよ。終わったらそっちに行くよ」
俺は高弥にそう言って、高弥から離れた。
別に本が見たいわけではない、高弥をストーキングしている奴がどんな奴か少し興味があったので、探してやろうと思ったのだ。
高弥から離れ、俺がその人物を探そうと隣の本屋に行くと、直ぐにストーカーは見つかった。
「あ……」
大きい瞳にふわふわとしたウェーブの掛かった茶色髪。
間違いない……ストーカーは昨日教室で出会った一年生の女の子だった。
立ち読みするフリをして、ずーっと高弥を見ていた。
「お前……ストーキングならもっとちゃんとやれ、バレバレだぞ……」
「え!? 嘘!!」
「まぁ、高弥にはバレてないみたいだったけど」
「あ、それなら良いです」
「ストーキングは認めるんだな……」
「だって、先輩が言ったんじゃないですか! 自分で頑張れって! だから私はこうして、観察から始めたんです!」
「お前みたいなのが将来ストーカーになるんだろうな……」
「何か言いました?」
「別に……はぁ……手っ取り早く、高弥に話かけて仲良くなるとか、他に方法はいくらでもあると思うが?」
「え? 何行ってるんですか? 先輩馬鹿ですか?」
「おぉ、なんだお前。いきなり口悪いな」
「話かけられないから苦労してるんじゃないですか、少しは乙女の気持ちを察してください」
「そうだな、目の前にいるのがストーカー予備軍じゃなかったら、俺も察してたかもな」
「だからストーカーじゃないです!」
なんなんだこいつは……。
俺がそんなことを考えていると、周りのお客さんから見られていることに気が付いた。
「ちょっと来い、ここだと邪魔になる」
「え!? な、なんですか?」
俺は彼女を連れ出し、ベンチに座らせる。
「あのなぁ……こう言うのはなんだけど、お前のやり方はたぶん間違ってると思うぞ」
「先輩が協力してくれないからじゃないですか」
「だからそれは……あぁ、もういいや、なんか説明するのも面倒になってきた」
「あ、先輩喉渇きました、ジュース奢ってください」
「お前の先輩に対するその図々しさはなんなんだ……」
俺は仕方なく彼女のジュースを奢った。
まぁ、勝手に彼女に干渉したのは俺だし、これくらいは仕方ないか……。
「真木先輩って、今日は何を買いに来たんですか?」
「あ? あぁ、ルーズリーフが足りなくなったって言って、買いに来たんだ。でもあいつ、文房具とか見るの好きだから、毎回文具屋に行くと結構長いんだよ」
「へぇ……そうなんですか……」
彼女は俺の話を聞きながらも、キラキラした目で文具屋にいる高弥を見ていた。
よほど好きなのだろう、彼女は高弥から目を逸らさず、ジーっと見ていた。
「そんなに好きなら、声掛ければいいだろ?」
「だから、言ってるじゃないですか、私は真木先輩を前にすると緊張して何も話せなくなるんです、いい加減にしてください」
「俺はその説明を聞くのは初めてだぞ」
だから、この子は昨日、高弥が戻ってきたときに急いで帰っていったのか……。
しかし、一体どうしてそんな風になったのだろうか?
別に俺とは普通に話ているし……好きな人の前だと緊張するってやつか?
「なぁ、なんでお前は高弥が好きなんだ?」
「え? いきなりなんですか、協力しないって言ったくせに」
「いや、ただの興味だ」
「ふぅ~ん、そんなに知りたいですかぁ~でもただで教えるのはなぁ~」
「ならいいや」
「早っ! 諦め早っ!!」
「いや、基本的にお前に興味がないから」
「なんかそういわれるとムカつく……絶対教えてあげませんから!」
「だから、別にそれで良いって」
「本当は気になるんじゃないですかぁ~?」
「全然」
人がどうやって恋に落ちたかなんて話、そこまで気になりはしない。
たまに興味が沸くことはあるが、そこまで必死になって聞きたいとも思わない。
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