第6話
「大丈夫ですか? 何か飲み物とかいります?」
水分も取らずに話しっぱなしだと、さすがに声の調子がおかしくなるかと思いながらそう問いかけたけど、勇者は小さく首を横に振った。
「……いや、大丈夫だ。話を続けよう。……僕の仲間に魔女に拾われ育てられた人間の魔術師がいる。彼女も彼が現れた時用にお菓子を持ち歩いていた、ある日彼女と一緒にいる時に彼が現れたから、彼女はいつものように彼に持ち歩いていたお菓子を彼に与えた……彼はいつものようにそれを口にして、ひどく驚いた後に彼女に掴みかかった、そしてこう言った。『これをどこで手に入れた、あいつは今どこにいる』って。彼女が話を聞いてみると、彼女がその時彼に与えたお菓子……レモンクッキーが君の作ったものとよく似た味だった、と」
「魔女が育てた人間……それで、だいたい二年前で、レモンクッキー……ああ……そういう経緯ですか……」
なんとなく話が見えてきたが、確認のためにも話を促す。
「よく似ているとはいっても、君が作ったものよりは美味しくないとも言っていたらしい。……そのレモンクッキーは彼女の養母である魔女が手作りしたものだった。彼女が養母にそのクッキーの作り方をどこで知ったのか聞いてみたら……ええと、まじょちゅーぶ? を見ながら作ったらしくて……」
「……それでその魔女さん経由で私が……この幻惑の魔女が『アネモネ』として動画配信していることを知ったのですね?」
そう問いかけると彼は頷いた。
確かにそのくらいの時期に私はレモンクッキーの作り方の動画をあげたはずだ。
……まさかそんなことで身バレするとは思っていなかった。
仮面してるのになんでバレたのだろうか、声だろうか、それとも体型とか髪色だろうか?
「その魔女さんに『アネモネ』の……どうが、を見せてもらって……その後でその魔法道具を借りて彼が現れた時にどうがを見てもらって……それで『アネモネ』が君である確認が取れたんだ……ところであの、まじょちゅーぶっていうやつすごいね。多分念話とかその辺りの応用なんだろうけど……」
「マジョチューブとかその辺りの技術は、とある魔女さまが観測してる異世界にある……ええと……確か、ニッポンっていう国にあるものを参考にして作ったものらしいですよ。動画の撮影に使ってるカメラもその世界のものらしいですね。……ちなみにマジョタックのほしいものリストもその異世界にあるアマ何ちゃらっていう通販サイトのサービスを参考にしたものらしいです」
「別の世界のものなのか……それにしてもその魔女はすごいな……」
「ええ、とてもすごいと思います。……といってもご本人は異世界にある小さな島国を観測することしかできない能無しって自称しているんですけどね……」
何度かあったことがあるけど、自己評価がとても低い方だった。
なんであの人あんなにいつも自信ないんだろうか、よくわからない。
「そ、そうなのか……まあいい話を戻そうか。君の生存を知った僕は……僕達は君の居場所を突き止めようとした……彼女の養母の魔女さんに頼み込んで『アネモネ』のどうがを見せてもらって……君がどこにいるのかを探ろうとした」
「……うわぁ」
そういう方法を取ったのは仕方ないのだろうし、自分もそうしただろうけど……なんというか、ちょっと背筋がゾッとした。
「君の発言から君が『森』にいるということ、一回だけ君が家の近所にあると言って紹介していた赤いアネモネの群生……それをヒントに色々と探して……ようやく君の住処がこの【赤のアネモネの森】であるらしいことを突き止めたのが今から八ヶ月ほど前のことになる」
「あ……そういえば一年くらい前にあんまりにも見事だったからと、その辺適当に撮影してシフォンケーキの動画のおまけにしたことが……あれですか」
あの動画、地味に視聴回数が多いんだよなと思いながら、頭を抱えかけた。
迂闊だった、さすがにやめておけばよかったと後悔する。
……今度から気をつけよう。
「そう、それ。……君の居場所を突き止めた後、僕はすぐにこの森にやってきた……やってきたんだけど……何度試しても気がついたら森の入り口まで戻っていて……」
「だからマジョタックを利用した、というわけですか……まあ、そうでしょうね……たどり着けるわけがない。この森は……私の……この幻惑の魔女の最高傑作とでもいうべき場所ですから」
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