第21話 「閻魔大王の特別なご褒美」

あの日から数日が経って蛍の傷も癒えた頃、いつもの公園でベンチに腰掛けた俺たち2人は今回の件が無事に済んだことを互いに喜び合っていた。


そんな俺たちの前にどこからともなく突然、現れた2人の姿は西洋風の鎧に身を固めた眼光の鋭い鬼であった!


身長は2メートルを超えていて如何にも屈強そうで恐ろし気な感じのする2人は驚きのあまり声も出せない俺たちの前で手に持っていた豪華な小箱を両手で差し出すと、もう一人の鬼が箱の手前に付いている小さな扉を丁寧に開いた。


箱の中は豪華な部屋になっていて10センチほどの小さな人が煌びやかな衣装でゆったりとした椅子に腰掛けていた。


鬼たちに促されてその小箱の前に座った俺たちに

「忍びで来たのであまり大きな声で話せんから、もう少しこちらに顔を寄せてはくれまいか?」

そう言われた俺と彼女はお互いの頬を更に寄せながら小箱に顔を近づけて座り直した。


「なるほど、素直で良い子たちじゃ」

「申し遅れてしまったが儂は閻魔大王と呼ばれとる者だ」

「今回は活躍したお前たち2人に褒美を与える為、こっそりと地獄から出て来たわけじゃが天界に知れるとマズイでな」

「まずはこれをお前たちの額に埋め込んでおこう」


閻魔大王は椅子から立ち上がると前に出て来て2人の額に錦の袋から取り出した

キラキラする何かを貼り付けると

「まぁ、これは儂からのお節介という特別なご褒美じゃから気にせんで忘れてくれても構わんぞ」

「たとえお前たちが忘れたとしても今、貼り付けたモノが溶ける頃にはちゃんと思い出すじゃろうがな!?」

豪快に笑った大王は辺りを気にするように慌てて口を押えた。


「それでは本題に入ることにしようかの」


椅子に戻り腰掛けた閻魔大王はタブレットを懐から取り出すと色々と操作していたが

「これで見る限りでは蛍が生前に犯した罪は十分に償っておるみたいだし、恭介もここに残る理由が見当たらんな?」

そう言った大王に


「俺は先日、ある人間を無残に殺してしまいました!」

「その罪は償わなくていいんですか?」


連続殺人犯とはいえ、殺してしまったことに変わりないと思っている俺がそう申し出ると

「彼は私を助ける為にやったことです」

「その罪を償うならばどうか私に与えて下さい!」

蛍は目に涙を浮かべながら必死で俺を助けようとする。


「悪霊であるお前が数々の恨みを持たれた人間を呪い殺したとて、それは罪では無く、悪霊としての責務じゃ」

「まぁ、恭介に対して何か罪があるとすれば微々たる罪じゃがそこの蛍を恋に落としたことかのう・・・?」

「人間たちの暮らしが見える分、気づかぬじゃろうがお前たちが暮らしてるこの世界は地獄なのだ!」

「ここで暮らす限りお前たちが愛し合うことは出来ても結ばれることは永遠にやっては来ぬ」


「ここに良き夫婦が2組あるでな」

「再び巡り合えるお互いの運命を信じ、人間の世界で生まれ変わって幸せを掴んだ方が良いのではないか?」

閻魔大王は2人に優しく言い聞かせた。


恭介と蛍の想いは同じであった!


生まれ変わって記憶が失われれば別々の人生を生きて行くことになる・・・

それならば苦しくてもこの世界で暮らしたい!


「じゃから先程、お前たちに与えた儂のお節介というご褒美が必要になるんじゃろうが」

2人の気持ちを見抜いたように笑いながら大王が言った。


その言葉を聞いた2人はそれがどういう意味であるかをやっと悟ったようでお互いに顔を見合わせ頷き合った。


閻魔大王が貼り付けてくれた褒美が溶ける頃になれば互いの記憶が甦り、必ずまた会える!

それが2人に与えられた運命という最高のご褒美なのだ。


「儂を信じてくれたようじゃの」

「危険を冒してわざわざここまで来た甲斐があったわい」

ホッとした表情で言った大王は

「そろそろ時間も頃合いじゃ、さっさと終わらせて帰るかの」


恭介と蛍の2人を並んで立たせると紙を結び付けた矢を弓につがえて上空の月を目掛けて放った!


風を切る音も無く、真っ直ぐに飛んで行った矢は空の彼方に一瞬で消えてしまう・・・

「理由を記した手紙を天空の神に送って置いたからすぐにお前たちへと天から復活の光が差すじゃろう」

「そこで動かずにしばらくジッと待っておるのだぞ!」

そう言うと2人の鬼に合図をした大王は小箱を閉じた鬼たちと一緒にすぐに消えてしまった。


やがて天から光が差し込み、2人を照らす・・・


「しばらくのお別れになるけど必ず蛍のもとに行くよ!」


「恭介が迎えに来てくれると信じて必ず待っています!」

お互いの誓いを残し、その姿は消えてどこかの空の下で神の温情により2つの新しい命がこの世に生まれた。

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