第20話 「悪しき者たちの末路」

来るとわかっているのなら奴らがここに至るまでジッと待つ必要など無いと思った俺は蛍に動かぬように手で合図すると非常階段を下り始めた。


2階ほど下りた所で男と向かい合った俺が立ち止まると何か気配でも感じたのか、男もそこで立ち止まった・・・


彼の背後にはやっと姿を見せた悪霊の姿があった!


「地獄に送ったはずのお前がここで何をしてるんだ?」

俺が奴に話し掛けると少なからず驚いた様子で

「なぜ、人間のお前なんかに僕の姿が見えているんだ!?」

「もしかしてこの男に話し掛けてるのか?」

どうやら奴にはこの事態がまだ把握出来ていないみたいだ。


俺は階段を駆け降りながら殴り掛かった!

悪霊から見れば俺が男に殴り掛かったように思ったのだろうが俺の意識は男では無く、悪霊へと向けられていた。


繰り出した俺の拳は立っていた男の身体をすり抜けて悪霊の右頬に強烈な一撃を与えながら2人とも螺旋状になっている非常階段の鉄柵へと激突した。


俺も痛かったが殴られた上に俺の体を

支える形でぶつかった奴の方は腐敗が進み、悪臭漂う口からドロドロになった緑色の液体を床に吐き出しながら苦し気に呻いた・・・


尚も咳き込みながら

「なぜお前が俺と同じ霊界に存在出来るんだ!?」

多分、そう言いたかったのだろうが俺の蹴りでその言葉を最後まで言い終えること無く、床で激痛に転げ回りながら苦しむ。


「貴様は俺の大事な人をこんな目に遭わせたんだぞ!」

髪を掴んで引き摺り上げ、右膝で顔面を蹴り上げながら堪え切れない怒りをぶつけると奴の髪は頭皮ごと抜け、力なく床へと倒れたまま動かなくなった。


男の様子を見ようと俺が振り返ると男は再び階段をゆっくりと上り始めていた。


すぐに追い掛けようとした俺の足首が物凄い力で掴まれると引き戻され、そのまま柵へと叩きつけられた!


激痛に呻きながら何事が起きたのかと様子を伺うと先程まで戦っていた悪霊がよろめきながら立ち上がろうとしていた。


「お前も僕と同じだってことか・・・?」

「邪魔する奴は僕の世界から消えてもらうしか無いだろ!?」

そう言った悪霊は俺に向かって攻撃して来た!


明らかにさっきまでと違い力が倍増?

いや、10倍ぐらいになってるような気がする


奴のパンチや蹴りを食らったら大ダメージを受けてしまうほどの強い殺意みたいなモノが感じられた!

心に抱く恨みや妬み、敵対心など色んな要素が加わり強さを発揮するのが悪霊なのだろう?


だが俺には奴のパンチや蹴りがまるで予測出来てるかのように容易く察知することが出来るので軽々と躱せた。


躱しながら奴の顔面や腹部に自分の拳を叩き込む!


段々と奴の動きも緩慢になり、棒立ちの状態に近くなった所で渾身の力で殴ると遂に階段へとうつ伏せで倒れながら自らの顔面を強打し、その衝撃で全身が痙攣を始めた。


その姿を見た俺は心の中で憐れに思ったがこのまま許してもこいつはまた、同じことを繰り返すだろう?

誰かに対する恨みでも復讐でも無く、他人の命を奪うことしか興味を持たず殺しを快楽としている狂った奴なのだ!


俺が痙攣を続けている奴の後頭部を思いっきり踏みつけると半ば腐りかけている頭蓋骨は脆くも崩れ去った・・・

吐き気を覚えるほどの腐臭と歪な中身を漏らしながら奴の姿は段々と床に吸い込まれるように消え始めた。


この世界から忌まわしき悪霊が消えたことを確認した俺は男を追って急ぎ、階段を上って行く!


人間であるあの男に蛍の姿は見えないだろうが、階段で正面から向き合った時に俺の気配を感じたように思えた・・・

それが気になっていたことが俺に焦りを感じさせていたのだ。


「蛍、無事なのか!?」

俺が大声で問い掛けながら階段を上り切った時、見えたのは扉の前で小さく蹲った彼女とその前にしゃがんで何かしている男の姿であった。


やはり俺たちの姿があの男には見えていたのか!?


そう思った俺は怒髪天を衝くほどの怒りを覚えながらその男に近づくと襟首を掴み、立ち上がらせて殴り飛ばした!

何が起こったのかもわからないまま、男は顔面に大きな衝撃を受けて歪ませながら非常階段の柵にぶつかるも、その勢いは止まらず柵を乗り越えると地面に落下して行った・・・


地上8階から落ちた衝撃は凄まじく、男の身体は有り得ない角度で折れ曲がり無残な屍と化していた。


男は扉の鍵を開けようとしていたらしく扉の前には使っていたと思われる工具が残されていた。


結果的に悪霊の力を存分に発揮する俺の勘違いであったわけなのだが地獄界でも手を焼いていた悪霊は再び、地獄に戻り快楽的殺人を繰り返していた犯人は防犯カメラにより自殺と判断するより他に理由がわからない不審死となった。


そして喜び合う俺たちの前に目つきの鋭い、恐ろし気な2人の鬼が現れたのだが実際にはもう一人の存在があったのだ。

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