第15話 「誓いのファーストキス」
「まだ所々、皮膚が鬼の姿のまま残ってるし償いも終わってはいないから与えられた道具も装備もここに残ってるの」
鬼ちゃんは申し訳なさそうに説明した。
「これで俺が人間に戻ることは無くなったしお前と俺の時間も無限にあるんだから焦る必要なんか無いさ」
「お前が返さなきゃならない罪の償いも功績ってのを挙げれば一挙にグーンと返せるかも知れないだろ?」
「2人で助け合って頑張ればこれから先はどうにでもなるよ」
悪霊である介ちゃんは明るく励ました。
「だって人間の姿に戻らないと鬼のままじゃそなたと・・・」
彼女は尚も何か言いかけてやめたのに気づいた彼は
「あっ、そうだったよな」
「鬼ちゃんって名前を変えなくちゃいけないな!」
「俺も人間の俺には見えなくなるし声も聴こえなくなるから俺の呼び方はそなたじゃなくて恭介と呼び捨てで構わないぞ」
「それでお前の本当の名前は何て言うんだ?」
彼女が言えなかったことを呼び方のことだと勘違いした恭介は自分の呼び方を決めて彼女に本当の名前を尋ねた。
「えっ!?」
「だって私が本当の名前を教えたら喰ってしまうんでしょ?」
「私はき、恭介に全てを捧げた身だからたとえ恭介に喰われてしまっても身体の中に入るってことなのよね!?」
わけのわからないことを口走る彼女を見て
「俺がお前を喰っちまうはずが無いだろう」
「俺が名前を知りたいのは喰っちまいたいわけじゃ無くてちゃんと名前で呼びたいからだ」
恭介は彼女にちゃんと説明したが
「だ、だって名前を言った後にゆっくりと迫って来て食べようとするのをテレビとかで観たことがあるわよ!」
「怖くてドキドキするから最後まで観れないけどあれは絶対に喰う為に相手を油断させて目を閉じさせているに違いないわ」
「きっと名前を呼ばれたら意識が無くなるのよ」
どこまでを観て言ってるのか知らないが一番、大事な部分を観ないで想像ばかり膨らんでるのは確かなようで彼女は近くにあった木の幹に逃げ込むと隠れてしまった。
「あれはなぁ、名前を呼びながら喰ってるんじゃなくてキスしているだけなんだよ」
彼にもキスの経験は無いがテレビで放送してるキスシーンなら何度も観たことがある!
それを説明したつもりだったが彼女は
「キスって女性を獲物にする呪文みたいなものでしょ!?」
「そんな呪文なんか使わなくても私は恭介に抵抗しないわ」
「そなたが喰いたいなら喜んでこの身体を差し出します!」
彼女は名前を教えることを拒否しているようだが喰われるのを拒否しているわけでは無いようだ?
何だかちょっと厄介なことになったと恭介は頭を抱えた。
恋人が居なかったわけでは無いが、もともと恋愛経験も少ない上に悪霊となった時に自分の過去を全て忘れてしまっている。
恭介にとって鬼ちゃんが初恋の相手なのだ!
どう対処すればいいかわからず悩むのも当然だった。
悩みながら考え込んでいる恭介を幹の蔭からそっと見ていた鬼ちゃんは決意を込めた表情でゆっくりと彼に近づくと
「いいわ、そなたに私の本当の名前を教えることにする」
「私は恭介と一緒に過ごせて幸せだった!」
「恭介の役に立てて消えるのならそれで私は幸せだよ」
「だから喰ってしまっても私のことはどうか忘れないで欲しい」
震える声で目に涙を浮かべながらそう言った。
「ちょっと待て!」
「もう現世には存在してないけど名前を教えるぐらいで自分の存在を消し去る覚悟までしてどうすんだよ?」
「お前がそこに居るから俺はこうしてここに居るんだろうが!?」
名前を訊いただけでそこまで重大な決意をすると想像してもいなかった恭介はそんな彼女の両肩に手を置き、木の幹へと動けないように押し付けた!
彼の心の中は彼女への愛しさが溢れ出してしまうほど一杯になり、頭の中は破裂しそうなほど揉みくちゃになっていた。
押し付けられて身動きも出来ないまま、彼の顔が自分の顔に近づいて来るのを感じた鬼ちゃんは
「えっ?・・・えっ!?・・・?」
「まだ名前も教えていないのに喰われちゃうの?」
そう言ったが恭介の顔は何も答えないまま、すでに彼の息が唇に感じられるほど近くなっている!
最後は大好きな恭介と幸せな日々を過ごせて良かった・・・
彼に喰われることを観念した彼女は目を閉じた。
温かく柔らかい感触が唇に触れた瞬間、電流が流れるように体中を駆け巡りながら幸せな気持ちが充満して行く!
彼女はそれに応えるようにつま先を伸ばし、彼にしがみついた。
「私の名前は蛍(ホタル)」
「そなたを永遠に愛し続けることを今、心に誓いました」
キスを終えた彼女はそう告げると彼の胸に顔を埋めた。
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