第14話 「夢みた願いが叶うとき」

悪霊である介ちゃんに話したいことがあると誘われて向かった。


深夜の公園を歩きながら

「俺は人間に戻らずこのまま悪霊としてこの世界に残ることにしたからお前の方で手続きを頼む!」

彼は鬼ちゃんにキッパリと宣言した。


「そなたはオレがちょっと居ない間にそんな大事なこと勝手に決めてしまったのか?」

「人間には二度と戻れなくなると言っただろ!?」


興奮した口調で咎めるように言った鬼ちゃんに

「自問自答だよ・・・」

「人間である俺と話し合って決めたんだ」

「あいつもちゃんと賛成してくれた」

介ちゃんは落ち着いた口調で諭すように答えた。


「オレにはそなたの気持ちがわからないんだ・・・」

「美味しい物を食べて、友達と仲良くお喋りして、気持ち良さそうに眠れて、誕生日を祝う、そんな幸せが待ってる人間に戻りたくないと言うそなたの気持ちがオレには理解出来ない」


そう言って歩みを止めた鬼ちゃんは彼をとても辛そうな表情で見ながら瞳に涙を滲ませると


「そなたには夏海という愛し愛される女性が居る!」

「本当はオレを可哀想だと放って置けないと思うから無理してオレに付き合おうとしてるんじゃないのか?」

彼女は絶対に口にしたく無かったことを彼に訊いた。


「誰がお前に付き合うなんて言ったんだ?」

彼女の質問には答えずに問い返した彼に

「だってそなたはオレに付き合って残るんじゃないのか!?」

答えない彼に苛立ちを覚えながら再び問い返す彼女に

「ハッキリと言っとくが俺はお前に付き合うとは言ってないぞ」

「お前が俺に付き合うんだ!」

彼は有無を言わさぬ強い口調で言った。


「オレがそなたに付き合う・・・だと?」

彼が言った言葉の意味がわからず小さな声で繰り返した。


「そうだ!」

「独りぼっちで寂しくなった俺にお前が付き合うんだ」

「それに夏海さんは人間の俺である恭ちゃんの恋人なんだ」

「この世界で暮らす俺が好きになったお前との思い出は全部消えてしまうんだぞ!?」


「それじゃあ俺は一体、今までここで何をしてたんだ?」

「お前はそれでいいのか!?」

「それが俺の幸せつてことなのか!?」

「俺は人間となり、お前のことを忘れたくなんて無いんだよ!」

彼は懸命に自分の気持ちを伝えようと必死だった。


彼女はありったけの想いをぶつけられ、感動で頭が真っ白になり、胸が一杯で言葉がみつからず心の中で問い掛けた。


家族のみんなは天国で幸せに暮らしてるよね?

こんな私でも幸せになってもいいよね?

彼の胸に抱かれて時を過ごせて行けたらきっと幸せだよね!?


家族の恨みを晴らすべく自ら犯した罪を償う為に千年に近い永遠とも思える時を数知れぬ悪霊たちに仕えながら過ごして来た彼女である。


どの悪霊も彼女の小柄で醜い鬼の姿を蔑み、暴言と暴力により支配され続けて来たのだ!


容姿に合わせ女性であることも捨て、喋り方も乱暴にしたし有りのままの自分を隠すことで身を守って来た。


だが今度の悪霊である恭介は彼女に親切で優しく、人間に戻れる

機会を捨ててまで守ってくれようとしている・・・

それを信じるのが怖くなるほどの時が流れてしまっていたのだ。


彼女は彼に歩み寄ると無言のまま、彼の胸に身を寄せた身体を震わせながら声を殺して泣いていた。


そんな彼女を優しく抱き締めた彼は

「お前のことは全部、わかってる」

「何も言わなくてもわかっているから心配するな」

「これからも宜しくな!」


静かな口調で彼女の耳元に優しく語り掛けると

「私はそなたと一緒に、どこまでもついて行きます・・・」

彼女はやっとの思いで彼にそう告げると大きな声で泣いた。


彼女が落ち着くのを待った彼は悪霊から人間へと変わる前に手続きを済ませて置こうと提案した

彼の姿は人間そのもので悪霊の気配など微塵も無かった!

彼女と一緒に歩むことを決めた今は、逆に人間になってしまうことの方が困るのだ。


「わかった、今からすぐに連絡するね!」

彼女はスカートの裾を捲くり上げてパンツの中から携帯を取り出すとボタンを押して手続きの変更を申請した。


「そこはまだ鬼のままで変わってなかったんだな?」

手続きを終えた彼女に笑いを堪えながら彼が訊くと

「えっ?、まだこの姿に慣れてないし急いでたから・・・」

彼女はそんな言い訳をしながら恥ずかし気に彼を睨んだ。

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