第13話 「自問自答で決まったんだ」
「はぁ~、拙かったよなぁ・・・」
悪霊の介ちゃんがため息をつくと
「さっきから何度、同じことを呟いてるんだ?」
人間の恭ちゃんがそう問いかけるのはもう5回目だった。
「なぁ、俺が他の女性を好きになったら浮気なのか?」
悪霊の介ちゃんの質問に人間の恭ちゃんが初めて反応を見せたのは思いもしなかった質問だった!
「まぁ、俺と君は同じ人間だからなぁ」
「最近では鏡を見てるように違和感なく、そっくりだしな」
そう言って笑うと
「だけど同じ人間でも今は俺たちって別々の心を持ってるから女性の好みだって違うのは当然なんじゃないか?」
「逆に君が夏海のことを好きだって言ったら俺は嫉妬するぜ」
恭ちゃんは彼にそう答えた。
「なるほど、もっともな考え方で俺と同じ意見だ」
「やっぱり俺は人間に戻った方が幸せだと思ってるから彼女もすんなりと受け入れるわけには行かないんだろうなぁ?」
介ちゃんがそう呟くと
「察する所、恋の悩みだろうけどそっちの世界で好きな女性が出来ても人間に戻ることが決まってる君をその女性が好きになるのは彼女にとっても辛いと思うぞ」
「それで相手はやっぱり俺が知らない女性なんだろ?」
恭ちゃんは介ちゃんにそう尋ねた。
「いや、お前も良く知ってる鬼ちゃんだよ」
介ちゃんの答えを聞いた恭ちゃんは
「えぇっ!?」
「鬼ちゃんは女性だったのか?」
驚いた彼は思わず大きな声を出してしまい周囲を見回した・・・
鬼ちゃんが居たら申し訳ないと思ったからである。
「あはは、俺も最初はびっくりしてお前と同じ反応だったよ」
「でもな、あいつの心は優しくて限りなくピュアなんだ」
「人間で恨みを晴らす為に罪を犯して鬼にされ、もう千年ほどその罪を償い続けてるんだぜ」
「その罪を償っても戻る身体が無い彼女はこの世界で永遠に独りぼっちで暮らさなきゃならないんだ!」
「そんなのって絶対、寂し過ぎるって思わないか!?」
興奮しながら訴える介ちゃんに
「君が俺と同じ人間ならきっとその気持ちは同情や憐みじゃなくて彼女を心から愛してるからこそ、自分がそばに居なきゃいけないと思うだろうなぁ」
「だって俺が君だったら同じことをするからだ!」
「君はもう人間に戻るつもりが無いんだろ?」
「だったらその永遠を使って愛し続ければ彼女も君の真意をいつかは信じてくれるんじゃないかと思うよ」
恭ちゃんは励ますように力強い口調でそう言った。
介ちゃんはその言葉に感謝しながら
「これで何だか気が晴れたよ、お前と話せて良かった」
「話すと言っても同じ人間だから自問自答ってことかな?」
「何だか申し訳ない気もするが俺は人間には戻らない!」
「そうなると俺が存在した記憶もお前から消されるし俺たちの姿も声も見えたり聴こえたりしなくなる」
「短い間だったけどお前と一緒に暮らせて楽しかったよ」
「寂しくなるだけだからその時が来てもさよならは言わないぞ」
「だけどこれで夏海ちゃんとお前の新婚生活を邪魔する奴も居なくなるから遠慮なく仲良く出来るってもんだ」
明るく言って笑顔を見せた。
2人が会話を終えてテレビを観ている頃、鬼ちゃんが戻った。
「どうしたんだ?」
「出掛けて行った時とまるで違う姿になってるがお前は確かにあの鬼ちゃんに間違いないよな!?」
介ちゃんが驚きながらそう尋ねるほどに容姿が一変していた。
「カードにポイントが溜まってたんで更新したらこうなったんだがオレはそんなに変な姿になってしまったのか!?」
「何だか怖くて自分の姿が映るものを何も見れなかったんだ」
泣き出しそうな顔で2人を見ながら訊いた。
「いいや、変になったんじゃなくて可愛くて綺麗になってるよ」
驚きのあまり、何も言葉が出て来なかった介ちゃんの代わりに人間の恭ちゃんが彼女を褒めると
「そうなのか?」
「変じゃないならオレもあとでちょっと鏡を覗いてみようかな?」
恥ずかしがりながらも嬉しそうに言った。
「この世界じゃカードを使って罪の清算をしてるのか?」
驚いたような口調で訊いた介ちゃんに
「そなたが驚いたのはそこか!?」
そう言いながらガッカリした鬼ちゃんに介ちゃんは付け加える。
「それにしてもこんなにも本当のお前は可愛かったんだな」
介ちゃんが言った通り、彼女の姿は白くて小さな角を除けばもう鬼とわかるような面影はほとんど消えてしまっていた!
「そ、そなたに褒められると何だか気持ち悪いな」
鬼ちゃんは彼にそんな憎まれ口を叩いたが背中を向け嬉し涙を指先でそっと拭きながら頬を赤く染めていた。
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